第二十四話:進展 上
かなり更新が遅れました。
いえ、違います。スランプではありません。家庭の事情と別の小説の執筆で遅れたのですだからお願い見捨てないで仁岡頑張ってる!
………すいません。本作品を楽しみにしている方(いるかは分かりませんが)には本当に申し訳ないです。あと、仁岡には話の纏めを書く力はあまりなさそうです。誰か私に幻想を紡ぐ力を………!
今回、いい加減このままじゃ忘れ去られてしまうなと危機感を抱いたので、長ったらしい文章を『上』と『下』に分けました。何度も言いますが、すいませんでした見捨てないでください。
あと最近ファンタジーっぽかったですが、下が終わる頃には学園コメディーっぽくなりますから、どうか楽しみに………できるかなぁ。
「はぁ……何か、今日はドッと疲れる一日だった……」
煌夜は嘆息しつつそう呟いて綺麗なテーブルの上に突っ伏した。
煌夜がいるのは例の生徒会室(仮)。そこには彼以外に数名の男女の姿がある。ここは自分専用の席だと言わんばかりに煌夜の隣りに座っているルミアに、いつの間に用意されたのかこれまた高価そうなソファーに仲良く腰掛けているのがモモとリーナといった具合で、
「大丈夫ですか?」
さらにテーブルを挟んで煌夜の向かいに座る蒼髪の女性、カノンが心配そうに尋ねてくる。
「まあ、何とか。しっかし今日は人生に二度とないくらい濃い体験をした気がするなあ……」
「よかったですネェ。若いうちの貴重な経験は後の財産となりますヨォ?」
さらにさらにカノンの隣りの椅子に座り、微妙に年寄り臭い事を言いつつケラケラ笑っているのがガイアである。
「……ホント、貴重な体験の連続だよ」
煌夜はしみじみと呟いた。
あの後、結構な戦いの傷跡を残した公園や、倒れたままの涼をどうするか考えていると、何故か携帯の番号を教えた覚えはないのにガイアから電話がかかってきて、『後はこっちがテキトーに何とかするからとりあえず帰ってきなさい』的な事を言われたので大人しくそれに従った。どうせファンタジックでご都合主義な能力を持つ構成員がいたりするのだろうと煌夜は確信している(ちなみに鬼神刀は普通に持って歩いていたら銃刀法違反で通報される可能性大なので制服のブレザーやらで適当にぐるぐる巻きにして運んだ。ついでに倒れたままの涼もこのままではちょっと哀れなので、近くに落ちていた段ボール(雑草の香り付き)で同じくぐるぐる巻きにしてからベンチに寝かせて『家庭の事情でホームレスな少年』を装ってみた)。
そうして学校に到着し、とりあえず残った授業は受けておこうという話になり、鬼神刀とリーナをガイア達に預けてから煌夜、ルミア、モモの三人は四時間目の開始直前の教室に戻ったのだが、ここからが大変だった。これがまた語ると長くなるので、
○血相変えた委員長
○怒りに狂うクラスメイト達
の二ワードから連想していただけると大変助かる天神煌夜十六歳である。
「……で、ちゃんと説明してくれよ煌夜?」
突っ伏したまま首を巡らせれば、何やらそわそわしているモモの姿が見えた。質問したくてたまらないのか、もしくはこういった場所に慣れていないからか。恐らく両方だろう。
「コイツら誰だ? あと生徒会室ってこんな日本離れしたゴージャス空間だったのか? このソファーとかそこの絵とか、明らかに金使いすぎだろ」
「そーっス! 疑問は尽きないっス!!」
「存在自体が疑問なテメェが言うな」
「ひでぇ!」
モモの脳天チョップを受けたリーナがプルプル震えながら頭を押さえている。軽口を叩く(ちょっと暴力)程度には信頼関係が窺える光景だ。
「では、お二人には私から説明しましょう」
カノンの申し出に煌夜はおや、と思った。
「いいんですか? 何て言うか、組織的には」
ええ、とカノンは優雅に頷いた。
「煌夜様のお友達に獸人の少女。世界の真実を知る権利は十分持ち合わせていると思いますよ」
「はあ、異世界ねえ………。もうなるほどとしか言い様がねえな」
カノンの話を聞いたモモとリーナは難しい問題の解き方を教えてもらった生徒のように何度も頷いていた。
「じゃあ、お二人は異世界人って訳っスか」
「オヤオヤ、一応君だって我々から見れば異世界人ですよ?」
「うえっ? 異世界の人が異世界人の……おおぅ」
プッシュー、と頭から煙でも出しそうなリーナ。どうやら知能はあんまり良くないようだ。
「んじゃあ、その変な髪色も異世界人が故か?」
「あら、頭髪について貴方にどうこう言われたくはありませんよ?」
「うっ………」
何だか迫力たっぷりスマイルなカノンにモモが気圧されている。彼女の知られざる一面を垣間見た気分。
というか何と言うか、
「………馴染んでるなあ」
「ん? 何だコウヤ?」
いや何でもないよ、と怪訝そうにしていたルミアに手を振って答える。
「はいはい、では全員がしっかりと状況を確認したところで」ガイアはぱんぱんと手を鳴らして、「幾つかの確認を取らなければなりません。まずリーナ君、君はこれからする質問に正直に答えてください。返事は?」
「は、はいっス」
よろしい、とガイアは笑って、
「まず、君がこの世界にやって来た……まあ表現的には飛ばされたと言ってもいいケド、そこで通った真っ暗な場所が狭間世界だというのは分かったネ? そこで君は何か見なかったかい?」
組織としての問いに、リーナは少し考えるような仕草をする。
(狭間世界……か)
煌夜はそれを眺めながらちょっと考えてみる。
前にカノンやガイアが教えてくれたのだが、自分やこのリーナという少女のように狭間世界による被害を受ける者はそれほど珍しくはないらしい。
ただ、それでも煌夜の存在は異例なのだそうだ。
狭間世界に迷い込んだ者は、誰もが自分の知らない世界へと飛ばされる、或いはそのまま狭間世界で野たれ死ぬか(正確には飲み込まれてから発見されないまま生死不明となる)のどちらかなのに対して、煌夜はきちんと自分の世界に還ってきていて、しかもルミアという少女のオマケ付き。こんなケースは今までなかったらしい。
(まあ、偶然っていうか、運が良かっただけだとは思うんだけど)
そこまで思考していると、『あっ』とリーナが声を上げた。
「変な化け猫に襲われたっス! こーんなデッケェ奴!!」
彼女は両手を左右に目一杯伸して『こーんな』を表現する。
「猫、ですか? それはまた……確かに、あの空間で奇妙な生物を発見したと言う方々はこれまでもいましたが、大きな猫というのは始めてですね」
カノンが興味深そうに呟く。そういえば自分も変なのを見たな、と煌夜は思った。
「って、それおれがぶっ飛ばしたあれか?」
「そう、それっス!」
リーナが我が意を得たりといった顔でモモを指差した。それにガイアが「ほう……?」と目を細めてモモを見た。それがまるで彼という人間を見定めようとしているように見え、そんな視線に打たれたせいか、モモの体が少し震えた。
その後にいくつか質問が続くが、これといってめぼしい情報はなかったらしい事がカノンの口振りから分かった。そして、
「ではリーナさん、貴女はこれからどうなさいますか?」
そんなカノンからの質問にリーナは「へ?」と首を傾げる。
「組織の任務として、異世界へ飛ばされた人々を我々の手で帰還させる、というものがあります。まあ、未確認な世界の住人などの例外はありますが、幸いリーナさんがいた世界への門はこちらで用意できます」
「え? えーっと、つまり私帰れるんスか?」
「ええ。ですからもしこの世界でやり残した事があるのなら、どうぞおっしゃってください。ただ、犯罪行為はご遠慮くださいね」
にっこり。そんな擬音が似合いそうな笑顔を浮かべるカノンに一同は引きつった笑みを返した。真面目な印象な彼女が言うと冗談だか本気だか判断しかねる。
「うーん………あの、少しわがまま言ってもいいっスか?」
どうぞ、とカノンは先を促した。リーナは少しためらっていたが、やがて意を決したように口を開く。
「私、しばらくこの世界にいたいんス」
「え? この世界にですか?」
リーナは頷く。
「せっかくの機会だし、私、もっとこの世界を見て周りたいんス。それに、モモさんには珍味を食わせてもらう約束もしたっスから」
珍味? とモモを見ると、彼はやれやれといった感じにため息をついていた。
カノンはしばし逡巡した後、
「……分かりました。では上の方には私から伝えておきましょう。寝食はどうなさいますか?」
「あ、それはモモさん家で」
「おれン家確定かよ」
モモはそう突っ込んだが、その顔は苦笑を浮かべていて、嫌そうには見えなかった。
「彼女の話はまとまったようですネ」不意にガイアがそう切り出して、「では次の話題ですけど――――」
彼はモモを指差し、
「百田太郎君。君、我々の仲間になりたまえ」
『えっ!?』
ガイアの発言に一同が驚愕の声を上げた(唯一ルミアは興味なさそうだったが)。
「いや~、聞くところによれば? 君は“あそこ”から出てきた化け猫を一人で叩きのめしてしまったとか。そんな君ならきっと組織でも働けるでしょう、という訳で」
ガイアは壁に立て掛けてある赤い刀―――鬼神刀を指差して、
「アレも餞別にプレゼントー。オメデトーゴザイマース♪」
今度こそ一同は何も言えなくなった。ただ魚みたいに口をパクパクさせているだけだ。
元凶はケラケラ笑って、
「いや~、正直アレ始末に困ってたんだよネー。廃棄するにしてもそこらに捨てる訳にはいかないし、また封印するのも面倒だし。だったらあえて有効に使って見るのも一つの手だよネ~?」
「ネ~って……」真っ先に我に返った煌夜が、「えーと、いくつか質問です」
「はいなんでショウ?」
「そのスカウトはありなのですか」
「アリですヨ? ウチの組織じゃ、年齢問わず有能な人間はスカウトできる制度もありますから。ま、本当はそれでも一定の手続きを踏まなくちゃならないんだけど、君らは特別っていうか私らが勝手に認定した非公認のメンバーだし、それが今さら一人二人増えようが無問題ですヨ」
あっさりと答えてくれた優しいガイア先生に半ば絶句しつつ、
「じゃあ、『アレ』を持たせる理由は?」
煌夜は鬼神刀を見た。
脳裏に浮かぶのはあの涼という少年に起こった禍々しい変貌。あれを引き起こした呪いの武具を、友人に持たせるのはちょっとどころではないためらいがある。
「大丈夫ですよ。きっと太郎君なら扱えます。それに……」
ガイアは一度言葉を切って、
「………使ってあげないと、あの武器も浮かばれないでしょうしね」
それはあまりにか細い声で、誰の耳にも届かなかった。
そしてガイアはモモに歩み寄ると、
「太郎君、ちょいと右手を拝借」
「は?」
頭に疑問符を浮かべたモモの右手を取る。そして何かを呟いたかと思うと、人差し指を右手の甲に軽く当てた。
すると、ジュウッ、という焦げたような音と共にモモの右手の甲に幾何学的な模様が浮かび上がる。
「って熱ぃいいいいいい!?」
「もっ、モモさーん!?」
ごろごろと右手を押さえてのたうち回るモモにリーナは心配そうに駆け寄った。
「て、てんめ、いきなり何しやがるっ!?」
涙目で起き上がったモモがガイアに拳を放つが、その一撃は首を軽く傾けただけで躱されてしまった。
「君の右手に転移の陣を刻んでおきました。これで、君とあの刀の間には繋がりが生まれた事になる。いつでも好きな時に刀を出したり戻したりできるからネ~」
「何訳の分かんねえ事言って……」
「いいからいいから。ほら、虚空から刀を引き出すイメージで念じてごらん」
しばし不審そうにガイアを睨み付けていたモモだったが、
「……ちっ、やりゃいいんだろやりゃあ!」
犬歯もむき出しに、モモは何かを掴むように空に右手を伸した。
すると、壁に立てかけてあった鬼神刀が一瞬でモモの右手に出現した。
「うおっ、ホントに出た!!」
「すげー! モモさんすげー!!」
次に彼は鬼神刀を掲げる。パッという音が聞こえそうな感じで鬼神刀が消えた。
『おお―――!!』
モモとリーナは面白いオモチャを手に入れた子供のように無邪気に驚いている。特にモモの方は怒りも忘れて刀を出したり消したりしている。
「へえー。あれって魔法か何か?」
「まあ、似たようなモンですかね。ただ運べる質量は決ってますし精神力も結構使いますからあんまり使ってると疲れますヨ」
「ホントだ」
壁際で肩で息をしている少年を一人発見した。
「ついでに、君らにはこれも渡しておきましょう」
そう言ってガイアは懐から何か取り出した。
それは四つの銀色の鍵だった。
「流石にいつまでもこの空間を占領しておく訳にはいきませんからね。それを持っていれば自動的にこの場所に繋がりますから、次にここに来たい時はこれを持っていてくださいね。忘れたら入れませんから」
煌夜はその鍵の一つを手に取った。
重さはまるで感じなかったが、持っている手が不思議と少しだけ重いような気がした。