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第十六話:とある一日 ~少年Aの場合その二~

 始まりは購買までの、時間が許す限りのちょっとした道のりのはずだったのだが、なんだか今はその道は実は天竺まで続いていました、と暴露されてしまった後のような脱力が全身を侵している…………と言うのは言い過ぎか。

 旅のお供(?)として新たにガイアを先導者に加えた二人は廊下をてくてく歩く。完全に休み時間をぶっちぎって授業タイムに突入している現在、生徒の姿は一っ子一人見当たらなかった。態度はともかく、授業を抜け出してこっそりフィーバーしているような素行の悪い愚か者はこの学校にはいない。だんだんと教育環境が悪化しているこの現代で、その点はなかなか好評化できるのではないだろうか。


「………っていうかあまりにとっさだったから自然とついて来ちゃったけど、授業サボっていいのかな? 学生として」

「まぁ、『我々』としては優先度はこちらが上でしょうし、別にいいんじゃないですか? 何ならちょいと学校側に細工してボイコットそのものをもみ消してもいいですヨ?」

「いや、遠慮します」


 随分あっさり言ってくれたが、遠慮した。そういう方法は実際不可能ではないだろう。天井から現れるような人間ならもう何でもありな気がする。が、皆がやっている事をせずに自分だけ得をする。それは結果的には助かってもやはり罪悪感は残る。カンニングしてまでテストで良い点を取りたいとは思わないのだ。


「………ところで」と煌夜は首だけ動かして、「そんなに警戒しなくてもいいと思うよルミア」


 煌夜は自分の背中にぴったり張り付いてガイアを睨んでいるルミアにそう言った。


「うるさい。私の勝手だろう」


 だがやはり頑としてその態度は崩さない。はて、と煌夜は首を傾げた。そんなに彼が嫌いなのだろうか。確かに信用しきれないところはあるかもしれないし、まぁ、彼から暴行を受けた件も警戒心に拍車をかけているのだろう。だが、今のところガイアからは敵意は感じられないし、それほど警戒する必要もないのではないだろうか。それともそう思ってしまう自分の方がおかしいのだろうか? よく知人からは『お前は妙に達観しているところがある』と指摘されるが、これがそうなのだろうか。

 ガイアは特に傷ついた様子もなく(と言うかそもそもこの男が傷つく事があるのか謎だが)、


「そんなに怖がらなくても。あの時の行いの事なら再度謝罪しますから。ほら、うまい棒ヤサイあげますヨ」

「いるかそんな物!!」


 ポケットから取り出されたそれをルミアはひったくった。たった今聞こえたいらない発言は煌夜だけに聞こえた幻聴だったらしい。


「ところでさ、俺達どこに向かってるんだ?」


 後方から『うえー』という少女の声が耳に入った。ヤサイ味はあまりお気に召さなかったようだ。


「ここですよ」


 そう言ってガイアが歩みを止め、同じように二人も足を止めた。ガイアが示したその場所は、


「生徒会室?」


 だった。年期の入っていそうな、悪く言えば少々ボロっちいドアに、達筆な字で『生徒会室!』とデカデカと書かれた紙が貼られている。位置的には一階の職員室近くにあるため教師に見つからないかとヒヤヒヤものだ。


「こんな場所が、何だって言うんだよ?」


 友達の平坂香花が所属している会の主な活動場所。煌夜にとってはそれくらいの認識しかなく、中にも入った事もない。一体どんな所に案内されるのかと少し緊張していたのだが、なんだか拍子抜けしてしまった。


「まあ見ててごらん」


 そう言ってガイアは懐から何かを取り出した。鍵のようだった。金色の、小さな鍵。だが生徒会室を開けるための鍵ではないらしく、それを自然な動作でノブではなくドアの中心に突き立てて捻った。


「む?」


 そう呟いのはたルミアだ。煌夜も内心驚いている。

 捻った、と思ったのと同時に、ドアに淡い光を放つ円陣が現れた。見た事もない文字が所々に刻まれた円陣。RPGとかでよく見る魔方陣を想像すれば分かりやすいか。円陣は時間にすればほんの数秒発光した後、氷が溶けるように徐々に小さくなって消えた。

 ガイアは鍵を仕舞い込んでから道を譲るように動いて、


「さ、どうぞ」


 と促した。訝しげに思いながら、ドアノブを掴んで回す。音もなくドアが開いて中に入った。そして、


「あれ?」


 と自分が聞いても素頓狂な声を上げた。

 当たり前だがそこは室内だ。いきなり外に繋がっていたりはしない。だがとても奇妙だった。部屋の大きさは特別大きくもなければ小さくもない。いや、どちらかと言えば広い方か。踏み付けるのもためらいそうな上等な赤い絨毯が床一面に広がり、壁には芸術的な絵画が飾られ、様々な装飾品も見える。パッと見はどこかの貴族のお屋敷の一部屋、と言った感じだ。

 こんな生徒会室が存在する訳がない。


「ようこそ煌夜様、ルミアさん」


 唖然としている煌夜を迎えたのはカノンだった。部屋の奥の方で椅子に座りながら、優雅にティーカップを傾けていた。


「カノン、さん? 何ですか、ここ?」

「カノン、で結構ですよ煌夜様。何って、この部屋には昨日来たばかりではありませんか」


 お忘れですか? と首を傾げながら言う。


「おいちょっと待て。昨日私達が来た部屋はこんなではなかっただろう。大体狭くなっているではないか」


 後から入って来たルミアが怒ったように言う。馬鹿にされていると思ったのかもしれない。

 それにカノンはちょっと困ったように笑いながら言い淀んだ。


「ええと、それはですね…………」

「いざ作ってみたはいいものの、大きさの指定を間違えてしまって彼らが帰った後に慌てて作り直して飾り付けしたんですよね♪」

「ガイアーズ!」


 顔を真っ赤にしてカノンが叫ぶ。何となく、この二人の関係を垣間見た気がした。


「あ、えーと」

 

 このままではいけないと煌夜は本題を切り出す。


「あのー、情報と初仕事って聞いたんだけど」


 その声に彼女はハッと我にかえって、


「そ、そうでしたね」カノンは一度コホンと咳払いをしてから立ち上がり、「では少々お待ちを。ガイアーズ、手伝いなさい」

「はいはい、了解しましたよカノン様」


 睨み付けもなんのその、今にも吹き出しそうな顔をしながら彼はカノンに続く。二人は部屋の隅にあった扉へと入っていった。しばらくもせずに二人は戻って来た。その腕には何かの資料らしき物が抱えられていた。


「まずこれが、『世界を守りし者達』が調べた『狭間世界』に関する資料の一部です」


 それをテーブルの上に置く。煌夜とルミアはそれを手に取って見てみた。

 たくさんの文字の羅列や写真、しかしどれも『かもしれない』というあいまいで推察的なものが多く、有力な情報とは程遠そうだった。


「………どう? 何か思い出せそう?」


 隣りで眉間に皺を寄せているルミアに訊いてみた。具体性はなくとも、少しくらいは何かしら引っ掛かるかもしれない。彼女は難しそうな顔をしつつ、


「…………字が読めん」


 ガクッと煌夜はずっこけそうになった。


「だが駄目だな。何一つピンと来ない」

「そっかぁ……」


 煌夜自身は経験もないので分からないが、記憶喪失とはやはりそう簡単には思い出せるものではないらしい。


(えーとなになに? 【狭間世界………あらゆる異世界へと続く空間であり、またどの異世界からの干渉も受け付けない完全に孤立した世界。そのため存在すらも怪しまれるが、かの空間が関わったらしき事件はすでにいくつか確認済みである。術や儀式など特殊な手段を用いずに異世界へと繋がるこの空間は我々としても非常に利用価値が高く……】……………んー)


 色々と自分なりの解釈で読み進めてみるが、ガイア達から教えてもらった以上の情報はありそうにない。加えて専門用語も多分に含まれているため全てを理解するのは難しそうだった。


「申し訳ありません、今はこれくらいしか……もう少し時間をくだされば、もっと詳しい情報も用意できるのですが………」

「いや、いいよいいよ。改めて『狭間世界』について確認できた事だし………………?」


 そう言いながらペラペラと資料をめくっていた煌夜はそこに書かれた一つの言葉に目が止まった。


【『神』へと続く道】


(? どういう意味だろ……?)


 まるで怪しい宗教の勧誘文句のようなこの言葉が、異様なくらいに気にかかった。尋ねようと口を開く前に、


「さて、これはまた後でゆっくりと拝見してもらうとして、肝心のお仕事の方です」


 ガイアがそう言ったのでそのまま口を閉ざす。そして彼はようやくその内容を語り始めた。









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