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第十五話:とある一日 ~少年Aの場合その一~

 天神煌夜は自室の布団の上で目を覚ました。カーテンから輝かしい朝日が漏れている。雀の心地よい歌声も耳に届く。

 いつも通りの、朝。


「…………………ははっ」


 これでまだ『いつも通り』なんて思える自分に、寝起きにも関わらず笑みがこぼれた。


「………そうだよなあ……色々あったもんなあ……」


 ある日突然不思議な場所へと行って。

 そこで一人の少女と出会って。

 出て来たと思ったらその少女に襲われて。

 その後はいつの間にか少女と一緒に暮らす事となっていて。

 学校に行ったら彼女がついてきて。

 そうしたらまた変な男が現れて。

 なんやかんやあってなんとかなった末(正直よく覚えていない)、今度はその男の仲間っぽい女性が現れて。

 ついには、『世界を守りし者達ディセンド』なんて組織に自分が入る事になってしまった。

 本当に、これだけならおとぎ話か何かのように思える。

 だがそれは決して夢ではない。その輪の中には、どれだけ小さかろうとも、確かに『自分』という存在があるのだ。

 ちらりと視線を横に向ける。

 一週間前には自分が眠っていた愛用のベッドの上では、一人の少女が毛布と枕を蹴っ飛ばして気持ち良さそうに爆睡している。艶やかな長い黒髪は纏めてもいないためベッドの上でぐちゃぐちゃになっているが、彼女の場合はちょっと櫛でも入れさえすればすぐまた元通りになるであろう。

 ルミア。

 自分の『今まで』を破壊した少女。

 そして新しい『これから』を運んできた少女。

 決して夢ではない事の、証明。

 そうしてまた、『いつも通り』の『新しい』朝が始まるのだ。










 朝の支度の一通りを終えて後は学校に行くだけとなったのだが、


「ってルミア。何でまた制服着てんの? 気に入ったのか?」


 女子制服を着たルミアがそこにいた。しかもいつの間にか若干元の形から改造してあった。まあ目立つような変化としてはスカートの丈が短くなったり反対にブレザーの丈が長くなったりといったところか。ワイシャツだったり学生服だったりと変なところで食いついてるな、と煌夜は思ったが、ルミアはさらりと、


「何でって、私もガッコーに行くからに決まっているだろう」


 ……………………………………………………………………………。


「コウヤ。その耳掃除のジェスチャーは何だ? 私をバカにしているのか? 蹴るぞ?」

「いやゴメン待って。そうじゃないんだけど………えと、もっかい言ってくれる? 誰が何だって?」

「だから、私もガッコーに行くと言っているのだ」


 ………………………………………………………………………………聞き間違いじゃなかったかー。


「今度は頭を抱えてしゃがみ込んで、何がしたいんだお前は?」

「強いて言うなら現実からの逃避かな」


 いくらなんでもそれはない……と思った。

昨日は結局訳が分からないまま事が進んで訳が分からないまま事が終わってしまったから忘れていたが、本来学生でもなんでもない彼女が学校に来るというのは常識的に考えて問題だらけだ。むしろ問題しかないと言ってもいい。今さら『常識』がどうしたという気もするがそれでも最低限度は守っていきたいと思っている天神煌夜十六歳だ。

 流石に二日続けては煌夜の肉体も精神も保たなくなるに違いない。そもそも『その子は誰?』と再度追求されてきたら手の打ちようがなくなる。なので頑張って彼女を押しとどめる事にチャレンジしてみる。


「あのねルミア。こう言ってはなんだけど、生徒でもないお前が学校に来るのは、しかも授業とか受けるのはちょっと無理があるからな? そもそも昨日帰ってみたら家の鍵とかしてなかったから空き巣に入られたかと思って肝を冷やしたんだぞ」


 冗談ではなく、どこぞの女の子の手によってぐちゃぐちゃにされた自分の部屋を目撃した時は心臓が止まるかと思ったのだ。あんな思いは二度としたくない。


「だからさ、今日のところは大人しく留守番しててくれない? 今度どっか遊びに連れて行くからさ」


 両手を合わせて拝むように頼んでみた。しかしルミアは、


「ふむ。遊びに出かける、というのはなかなか魅力的だが、残念だったなコウヤ。これを見ろ」


 そう言いながら彼女は制服のポケットから小さく折り畳んだメモ用紙を取り出して煌夜に差し出した。


「何これ?」

「あのもやしがコウヤに渡せと言っていたのだ」


 もやし? と煌夜は内心首を傾げたが、少し表情を歪めてメモ用紙を見つめているルミアを見て、一人の白黒男に思い当たった。ついでに彼女の言語的教育環境が不安になってきた。


「中身は見ていないが、何が書いてあるかは聞いている」

「ふーん……?」


 メモを受け取って、開いて中身を見てみる。何行かにして文字が書いてあった。日本語だったが、そういえば異世界の人間ってこっちの文字勉強するのかな? という疑問が頭の片隅に浮かんだ。今度訊いてみる事にする。


「えーとなになに?」


 メモ用紙にはこんな事が書かれていた。


【煌夜君へ  要点だけ手短にお話します。はれて我々のお仲間となった君達だけど、やはり情報を与えるにも君ら二人は一緒にいてくれた方が何かと都合が良いと思うから、ルミア君も学校に転入させる事にシマシタ。あ、面倒な手続きはこちらで全部やっておきますんでご心配なく♪】


 ビリビリに破いてやろうかと思った。


「………絶対楽しんでるよなこれ」


 この分だと、ルミアがどんなタイミングで自分にこれを渡すかも計算済みだったのだろう。

 あの野郎次見掛けたら取り敢えず殴っとこうと固く心に誓った。


「っていうか、本当に行くのか? 大丈夫なのか本当に?」


 正直不安で胸焼けしそうなのだが。


「さあぐちぐち言っていないで行くぞ下僕!」

「……はいはい、行きます行きますよ。こうなればヤケだ。っていうかその設定生きてたのか…………待て待て引っ張るなって施錠施錠!」


 ルミアに手を掴まれながらズルズルと引っ張られて行く。

 本当に、何もかもが新しい。










「んー…………?」


 朝のゴタゴタを除けばいたって普通に学校にたどり着いた。周囲には自分達と同じように登校してきている生徒もちらほら見える。ついでに彼らは二人の横を通り過ぎる度にこちらを、正確にはルミアを見ていた。彼女の美しさは目をひくのだという事を改めて思い知らされる。

 そして今の唸り声は校門前まで来た煌夜が首を傾げたものだ。ルミアはそんな煌夜を怪訝そうに見つめて、


「なんだ、どうかしたのかコウヤ?」

「ん? いや、モモに………クラスの友達に会わなかったなー、って思っただけ」


 いつもある程度決まった時間に煌夜の元までやって来るのがお決まりのパターンだ。たとえ不良に絡まれていようが交通事故に遭おうがそれに煌夜を巻き込む勢いで厄介事を運んでくる彼が、今日ばかりはまだ顔を見せていない。心配、というのとは違う。単純な疑問だ。元々殺そうとしても死なないような奴なのだ。


「友達………」とルミアは少し考える仕草を見せ、

「コウヤ、お前は――――」

「まああいつの場合はどうせ寝坊とかだろうけどな。普段からよく眠ってるし眠り癖がついてるのかも」

「………………」

「って、あれ? ルミアなんか言った?」


 何でか急に不機嫌顔になってしまった彼女にそう尋ねると、


「………いや、何でもない。とっとと行くぞ」

「え? あ、うん」


 そんなやり取りだけして校舎へと歩みを進める。


「あれ、なんか怒ってない?」

「うるさい黙っていろ屑が」

「ええっ!?」


 ………………一体何なのか。









 本当に、一体何なのか。

 ルミアという少女がガイアという男(と恐らくはそのお仲間達)の裏工作によって我が赤城高校に転入してきたのはよく分かったが、転校生としての紹介とかそういったお決まりイベントをすっとばしていきなり一生徒として扱われているのはどうなのか。何故昨日は教室中を見渡しても見当たらなかったはずの彼女用の座席がよりにもよって自分の隣りに設置されているのか。そして、


『ルミアさーん!』


 この愛すべきクラスメイト(バカ)共に彼女が質問責めにあっているのは、一体何なのか。

 現在は朝のホームルーム後の休み時間。チャイムが鳴り終わる前にクラス中の生徒の皆さんがちょこんと自席に座っている彼女の元まで文字通り殺す勢いで殺到した。一限目の授業準備なんてクソ食らえな生徒達のその行動に、煌夜は呆れ気味な視線を送る。

 ルミアのポジションが隣りの席故に、まるで自分も取り囲まれているような錯覚を覚える煌夜を完全放置で、矢継ぎ早に質問が繰り出されていく。

「ルミアさんどっから来たの!?」

「知らん」

「誕生日は? 血液型は!?」

「分からん」

「その髪触っていい?」

「あ? うるさい寄るな」


 超グダグダであった。


『クールなところがまたカッコいいー!』



 …………たくましいクラスだった。

 まぁ、世間一般で言うところの『記憶喪失』であるルミアが自分に関する質問をされたところでまともに答えられる訳もないのだが。素っ気ない答え方も、その事に触れて欲しくないからかもしれない。

 とはいえ、ちょっとした事で彼女が余計な事をポロッと口にしてしまう可能性もゼロではない。油断は禁物だ。


(ルミアってちょっとお馬鹿だからなあ)


 本人に知られたら蹴り殺されそうな失礼な事を、心の中だから、と自分なりに正当化させる理由をつけてこっそり考える。そうやって彼らの発言を注意深く耳に流し込んでいると、


「うあーい。質問ですにゃールミちゃーん」


 白衣姿の猫口調娘が元気良く手を上げた。


「る、ルミちゃん? おい、私の名前はルミアだ。勝手に変な名前で呼ぶな」

「えー。いいじゃーん可愛いーじゃんルミちゃん。で、ルミちゃんはどこに住んでるのかにゃー? 朝にはコウさんと一緒だったようだがその辺どうにゃん?」


 まるで旦那の浮気の証拠を突き付けた探偵みたいな顔をしてそんな事を言う。


(いちいち鋭い……!)


 やはりこいつは侮れん、と敵の脅威さを改めて思い知らされた煌夜に少女はニヤリと笑う。『こりゃあ面白くなりそうだぜ!』と顔に書いてあった。そんな密かな視線の攻防にルミアは全く気がつかないまま、


「ん? どこ、と言われれば私はコウヤの――――」

「家のご近所に住んでるんだよな!」


 慌てて煌夜がルミアの発言を叫びで遮った。危ない。これはある意味『狭間世界アストラル』とかより知られてはいけない真実だ。

 ルミアは煌夜をキョトンと見て、


「は? コウヤ、何を言っているのだ? 私はお前の家」

「の近くにある家だよね!」

「いや、だからお前の家に」

「近いところにある家だよねってこれもう三回目! ああもう空気を読みなさい!」


 『?』と疑問符が頭上に飛び交いながらも一応は黙ってくれた。取り敢えずは胸を撫で下ろす。共同………と言うか自分が保護者な気分でいっぱいだが、ともかくそんな生活が露呈されればきっと自分は二度とお日様を見られなくなるに違いない。


「ほー。そかにゃー」


 白衣の小娘は納得したのかしていないのかよく分からない声を出していた。が、『ふ、今日はこれくらいにしといてやるぜい』と目が豪語していたのを煌夜は見逃さなかった。微かに戦慄を覚えていた煌夜の耳に、


「はいっ」


 という綺麗な声が届いた。視線をそちらに移せば、桜色の髪の学級委員長がやはり手を上げていた。


「ルミアさんは煌夜くんの恋人さんですか!?」


 その才色兼備な委員長がそんな事を言い出すものだから、煌夜は机にゴン、と額をぶつけた。


「コイビト?」


 とルミアは捻った首を捻ったままこちらに向けて、


「コウヤ、『コイビト』とはなんだ?」

「え、俺に尋ねるの?」


 だんだん重たくなってきた頭をどうにか起こして、煌夜は何故か緊張した表情の委員長を見る。


「いや、ひらさ………香花。俺とルミアはそんなんじゃないから」


 危うく名字で呼びかけて言い直す。あの恐怖の眼光に打たれたくはない。


「そう、ですか? よかったぁ……」


 そう言ってホッと息を吐いた。何がよかったの? と思ったが口には出さない。あまり追求し過ぎてあの眼光以下略。


「? コウヤ、結局『コイビト』とは……」

「あー、うん。その話はまた今度な」


 やんわりと回答を拒否してから、


「つーか本当に付き合ってないわけ?」

「天神はこのお方とどうやってお知り合いになったんだ?」

「一緒に登校するぐらいには仲いいわけだよね?」

「毎日踏まれてるの?」


 という、委員長によって興味の心が刺激された他のクラスメイト達が今度は煌夜も巻き込んでどんどん質問を飛ばしてくる。


(ああ、まったく……)


 なんだか自分のこの状況がおかしく思えてきた。苦笑しつつ、煌夜はどう無難な答えを返そうか思案する。


(そういえば)


 と、煌夜は人込みの隙間から、一つの座席へと視線を向けた。

 廊下側の、後ろから二番目の席。主である赤いツンツン頭の少年がいない席は、寂しそうにそよ風に吹かれていた。


(結局、モモは休みか………。なんだろう、風邪……な訳ないな。あいつが風邪引いたとこ見た事ないし。なら、怪我? …………鬼みたいに強いあいつが?)


 有り得ないな、と煌夜は首を振る。

 いつもいるはずの人間がいないと、何と言うか………物足りなさを感じる。それに少し、心配になってきた。


(なんだろうな……胸がざわつく)


 それから少しだけ彼の机を眺めた後、クラスメイト達の質問をなんとかやり過ごすべく煌夜は視線を戻した。










 二限までの授業は、どうにかなった………と思う。少なくとも、『赤城高校教師VSワケワカラン女の子』みたいな展開にならずにホッとしているのは事実だ。

 授業終了のチャイムが鳴り響く中、首を巡らせれば、当たり前のように隣りの席に座っている少女は頭を抱えていた。


「??? エックスがワイで………?」

「いや、無理して考えなくていいから」


 現代日本の高校授業は世間と言うか色々知らずな彼女には若干荷が重かったかもしれない。今にも頭どころか全身から煙を吹き出しそうなルミアにそう言ってやる。


「しかし」と珍しくぐでーっとして机に突っ伏しながら、「お前が言ったように授業というのは確かに拷問だな。訳分からん話をベラベラと…………おかげで腹が減ったぞ」

「ええ? もう? まだ二限なんだけど。大体ほとんど寝てたじゃん」

「コウヤー。飯ー」

「いや、ないから待て待て立ち上がって飛び蹴りのスタンバイはよしなさい。ないものはないし、流石にこの時間からの購買は……」


 うーんと腕組みして頭を捻る。当たり前だが、自分が学校に持って来ているお財布の中身にも限界というものは存在する。お昼の事もあるし、今から大食漢なルミアの食料を、となれば金銭的に中々難しい問題である。

 だが『じゃあ買わない』という事になって、ルミアの元気がなくなったままというのも何となく罪悪感に似た気持ちを抱く。

 今度からお弁当作ってこよう、と密かに決めた煌夜は、


「………しゃーない。じゃあちょっくら買いに行こうか。さ、ルミア」


 煌夜は席から立ち上がって彼女を促した。シュバッ! とルミアは立ち上がった。


「本当か!?」

「本当本当。幸い休み時間になったばっかりだし時間も少しはあるだろ」

「という事は今日こそあの『超ドリームジャンボDXカツサンド』を食せる訳だな!?」

「お馬鹿! あんな一つ千五百円もするような化け物サンドイッチなんか買う訳ないだろ! あんなモンはお金持ちのお坊ちゃまが口にするような一品なの!」


 ぎゃいぎゃい騒ぎながら二人は購買へと向かって歩き出した。





 それから約五分後。

 購買から教室へ続く廊下にて、ニコニコの笑顔で大量の菓子パンを頬張る少女とやつれた顔でとぼとぼ歩く少年が発見された。


「…………まぁ、確かに化け物サンドは駄目って言ったよ。言ったけど、腹いせに菓子パンを千五百円分購入ってどうなのさ? っていうかそれ全部食べる気か?」


 恨みがましく菓子パン少女を見つめる。この出費だけでお財布の中身が残念な事になった。購買のおばちゃんは思わぬ収入を得たので嬉しそうではあったが反対に煌夜は悲しい気持ちでいっぱいだ。


「ふむ。ほはへははたひのへほくはのはからほれふらいはほーへんはろう?」

「食べるか喋るかどっちかにしろ。………いや、いいや。どうぞお気になさらずお食べくださいな。散っていった千五百円のためにも」


 ハムスターみたいに頬を膨らませるルミアを見ていると怒るに怒れなかった。

 ふぅ、とため息を吐く。

 世界は広い。だって『異』世界なんてものが存在するくらいなのだから。

 なら、煌夜と同じような境遇の人間もどこかにいるだろうか?

 もしいるのなら、是非ともお話をお聴きしてみたいものだ。


「それはそうと、次の授業まであと五分ちょっとだろ? 急いだ方がいいな。それちゃっちゃと食べちゃってね」

「ゴクン」

「飲み込みを肯定の仕草とした人を初めて見たよ」


 すでに生徒の大半が教室へと戻っているのであろう、周囲には自分達以外の人の姿もない。そうでなくともこんな時間に購買に来る人間など本当に稀なのだからむしろいなくて当然だ。

 そんな静かな廊下を歩いていたら、


「はーいそこでストーップ」

『うだあ!?』


 不意に天井から人間が生えて二人に声を掛けてきた。仲良く声を上げ、ルミアは抱えていたパンをぼとぼと落とした。

 っていうかよく見ると例の白黒男だった。天井の中から突き破るような形で逆さまに上半身だけ飛び出していた。


「何をしとるかこのもやしがぁ!」

「ホホホホホ。食べ物を粗末にしちゃいけませんよー?」


 ルミアは落とした菓子パンを石ころみたいにぶんぶん投げつけるが、振り子のような動きで全て躱された。猫のようにフーッ! と威嚇するルミアはサッと煌夜の背後に隠れた。

 よいしょっと、と白黒男ことガイアは天井からスポンと抜けて腕をバネにして着地した。

 煌夜はまだバクバク言ってる心臓を押さえながら、


「ガイア……どんな登場のしかた? モグラにでも転職したの?」

「アッハッハッハ。嫌だなあ煌夜君。言っておいたでしょう? 次に君達を呼ぶ時はお楽しみにって」


 確かにそんな事を言ったような。だがここまで凝った登場はどうなのか? 真夏の夜の肝試しなら間違なくいい悲鳴が聞ける。見上げてみると天井に穴らしきものは見当たらなかった。もう何でもありだな、と煌夜は脱力した。ついでに周りに人がいなくて良かったと思う。もし一般人に目撃されていたら不審者として通報されてしまうかもしれない。


「っていうかそうだ! お前なに勝手なサプライズしてるんだよ! ルミアの転入なんて何考えてるんだ!」

「だからメモにも書いてあったでしょう? 君らはセットであった方が都合がいいの。それともいちいち何かある度に家にルミア君を呼びに帰る方が良かったかい?」

「ぐ………」


 それを言われると返す言葉がない。

 ガイアは床に落ちている未開封のメロンパンを拾い上げ、


「まあそれはともかくとして、こんな時間にワタシが君達の前に現れた理由は分かるね?」


 バリッと袋を開けてメロンパンにかじりつく。


「もしかして……」


 煌夜の言葉にモゴモゴ咀嚼しながらガイアは笑った。


「ええ。お待ちかねの情報提供………それから初仕事です♪」


 新しい日常の到来、再び。






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