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第十三話:桃太郎、お供その壱を拾う

はい今回はほとんどモモオンリーです。実はコイツ準主役くらいになれるのでは? …………評価感想欲しい。

 一人の少年が、猫のイラストがついた大きめの袋を両手に持って夕方の街を歩いていた。

 夕日の光を受けるまでもなく真っ赤に染まった髪をツンツンに立たせ、ブレザータイプの制服を着崩した姿は、誰がどう見ても第一印象としては『不良』が妥当なところだろう。

 名を百田太郎、通称モモ。とある少年の幼馴染み兼親友である。

 本日の学校が終了し、彼はその帰宅途中である。


「野良どもに与える餌は予備も合わせてこんなもんでいいよな? さすがににこれ以上はおれの財布やべえし」



 誰にともなくぶつぶつと呟いた。

 モモが両手に持っている袋の中身はキャットフードだ。ちなみに彼自腹。

 何故この不良モドキ真っ赤小僧百田太郎がキャットフードなんてどう考えても似合わない物を持ち歩いているのか?

 答えは彼が無類の動物好きだからだ。

 いや、それだけでは答えにはならないか。

 簡単に言ってしまえば、これは彼の数少ない趣味の一つな訳である。週に一回か二回くらい近所の野良猫達に餌を与える。そうやって彼らが喜ぶのを見るのがモモは好きなのだ。

 そして趣味であるがゆえ、お金を使う事にモモは躊躇しない。なのでそろそろ貯金も尽きてきた頃だ。


「金かぁ………。次からは雅月か父ちゃんに借りるか。あいつらだって動物好きだろうし、母ちゃんは怖えしな………」


 歩きながら家族のすねをかじる事を考える。彼はその奇抜な見た目故、アルバイトができないのだ。彼自身、この格好が許容できないような場所でバイトなどしたくはない、というほど妙なポリシーを持っていたりする。

 と、そこに、


『しゃあ! 見つけたゼェ赤鬼ぃッ!』


 いつものように、あまり知性を感じさせないような大声と共にバカ(不良)共がモモの前に立ちはだかった。

 数はざっと見て10人かそこら。もはやモモに挑んでくる連中の間では鉄バット所持は基礎中の基礎となっている。おかげで目立って仕方がない。道行く通行人が『警察呼ぶか?』みたいな顔で何かを囁き合っているのが見えた。


『テメェをぶち殺せば俺らの名は一気に上がる! つーわけで大人しくぶっ殺されなァ!!』


 傍迷惑なその怒声にモモは特に反応せずにただ立っている。いや、反応はした。はぁ、と小さくため息を吐いたのだ。

 モモは喧嘩は嫌いではない。むしろ好きな方だ。戦っている最中は何もごちゃごちゃ考えなくてもいいし、何より『生きている』という実感が持てる。

 だが、今はタイミングが悪かった。

 モモにとって、これから行われる動物との触れ合いは己の『生』を実感できる時間の一つだ。

 つまり、せっかくこれからリラックスタイムだー、というところに思いっきり水を刺されたのだ。これで彼が不機嫌にならない訳がない。

 モモはキャットフードの袋を置きもせず、低い声で呟いた。


「………………一分」















「くべらぁ」


 とんでもなくダサい呻き声と共に不良の一人が数メートル飛んだ。

 その後にも『ぴぺらっ』とか『ぷぎょ』とかいうダサい呻き声が続くと共に不良共がサッカーボールみたいに次々飛んで行く。

 なんでか?

 無論、一人の少年によって彼らが殴られているからだ。

 ちなみに街中ではさすがに人目につく、という訳でちゃんと人気のない公園に移動済みだ。そのおかげで不良達は遠慮なく彼にぶちのめされていた。へし折られた鉄バットと撃沈した不良がただの公園の残骸と化している。次に公園にやって来るであろう子ども達がそれを見て泣き出さないか実に心配になってくる光景だ。


「ひ、ひぃっ!!」


 皆仲良くぶちのめされた結果残った最後の一人が短い悲鳴を吐いて逃げ出した。

 だが、モモはこんな程度で終わらせてやるほど甘い人格に育った覚えはない。やる(殺る)ならば徹底的に。それがモモの信念ポリシーだ。

 凄まじい速さで逃げた不良に追い付いたモモは『ぶひぃ!?』と何語か分からない言葉で喚く不良を左手でがっちり捕まえる。


「テメェらみたいなのがいるとなぁ―――――」


 鬼の鉄拳を振り上げ、


「近所の家のワンちゃんやネコちゃんが落ち着いて飯食えねえだろうがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」


 振り下ろした。

 ぐしゃあ! と嫌な音をたてて拳は突き刺さり、最後の一人が地面に転がった。ピクリともしないところを見るに、完全に気絶したらしい。


「二度と来んなバカ野郎」


 それだけ吐き捨てて、モモはベンチの上に置いてあった袋を抱えた。そして背後の地獄絵図を無視して目的地へと向かう。

 所要時間、きっかり一分。

 外傷、なし。

 相変わらずの鬼だった。










 モモが向かうのは自宅近くの道路。この辺りは街の中では比較的静かな区域で、車もあまり通らないため猫達が車に引かれるような事はない。まあ彼らだって馬鹿じゃないのだからそれくらい自分で避けそうだが。

 そして、モモが到着すると同時、野良猫が数匹集まってきた。その目が『モモさん、いつもありがとうごぜえますぜ』と語っていた。


「よー。いつもテメェらは元気だな。ほらよ、餌だぜ」


 モモがキャットフードの袋を広げると『ニャー!』と猫が一斉に袋目掛けて突撃してきた。


「おおっと待て待て。食べ過ぎはよくねえぜ? あと取り合いもな。仲良く食え」


 そう注意してやると、まるでモモの言葉を理解したかのように従った。彼らは野良ではあるが、いつもお世話になっているモモの言う事はちゃんと聴くのである。

 モモはその猫達の中の一匹の頭を撫でながら、


「やっぱり動物はいいぜ……心が洗われるな。飼うんじゃなくてこのフレンドリーな関係が素敵だよな」


 うんうん、と一人勝手に頷いていた。いや、一人ではなかった。野良猫達も『そっすねー』と頷いた気がした。

 しみじみ思う。


「おれが好きなのは『喧嘩』、『動物』、それから………『友達』だ。お前ら分かってるよな?」


 猫達は一斉に『ンニャー!』と鳴いた。肯定されたっぽかった。

 そんな可愛い『友達』に自然とモモの顔も綻んだ。と、


「あん?」


 数メートルほど先の道路のど真ん中に、大きくボロっちい布が落ちていたのが見えた。

 いや、布ではなかった。布から人の手や足が生えている訳がない。

 …………………………人の手足?


「ってはあ!? ちょ、行き倒れ!? 今時!? おおいアンタ大丈夫か!?」


 穏やかな気分から一転、大慌てで妖怪布切れモドキに駆け寄る。それを抱き起こして、


「おいっ! アンタこんな道のど真ん中にいたらいつか引かれちまうぞ…………って」


 そこまで言ってから、一瞬モモの時間は確かに止まった。

 布から覗いていた顔は、女の子だった。

 彼女の両目は閉ざされているが呼吸等は規則正しく行われているから、命に関わりはしないだろう。取り敢えずそれはいい。

 肩まで伸びた茶髪にわりと整った顔立ち。そして“獣耳”と布から少し顔を覗かせる短いふさふさの“尻尾”…………。


「ああ、これは『獣』っていうか『犬』だな、うん」


 動物好きのモモ分析。いやそうではなく、


「……………………はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 喧嘩してても絶対に出さないであろう声で絶叫した。













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