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第十二話:共に歩む道

取り敢えず、ここまでで第一章は終了となります。次回からは赤いあの野郎が活躍する予定です。これからも『キラメキ続けるこの世界』をよろしくお願いします。……いやーしっかし新キャラ達はよくしゃべるしゃべる。

 …………ここはどこだっけ?


 暗い、暗い場所だ。


 光と言えるものが何一つない。


 何故だろう。


 ここは、寒い。


 身体じゃなくて精神《心》が。


 ただいるだけなのに、胸が締め付けられるみたいに。


 とても、寂しいところだな……。


『煌夜』


 誰かが人の名前を口にした。

 誰の?


『しっかりしなさい、煌夜』


 また、声が誰かの名前を呼ぶ。


 誰が?


 それは、誰の名前だっただろう……?


『自分を見失うな。天神煌夜』


 天神………煌夜……。


 ああ、そうか。


 それは、自分の名前か。


『君の世界はこれから始まる。 どうか最後まで諦めず、『彼女』と共に歩んでほしい。』


 ……………『彼女』………?


――――ヤ、――ウヤ!


『ほら、『彼女』が君を呼んでいるよ?』


 …………………ああ、確かに聞こえる。


 懐かしい、声が。


『いずれは、私もちゃんと君と話がしたい。そしてその時は遠からずやってくる。それまでしばしのお別れだね』


 お別れ………?


 待ってくれ……。


 お前は、一体………。


 …………………。










「――――コウヤッ!」


 その声に、煌夜は目を開き、


「―――うわっ!?」


 至近距離で倒れている自分を覗き込んでいるルミアに驚いて転がるように跳ね起きた。


「気がついたか」


 どこか安堵したようにルミアが呟いた。


「え? あ、うん。っていうか、一体何が………」


 そう言って視界を巡らせてから、


「……………あれ、ここどこ?」


 そこは屋上ではなかった。

 どうやら室内らしいが、何やらとてつもなくだだっ広い。自分達の教室二クラス分くらいはありそうだ。が、せっかくのそのスペースを持て余していて、特に何があるという訳でもなくガランとしていた。時計や窓がなく、ここにいるだけでは今が朝なのか夜なのかも分からない。しかも照明もないらしく真っ暗であった。

 こんな場所、学校にはなかったはずだ。

 のっぺりとした白い床に手をあてて、


「えーっと……本当に何が……」

「その疑問にはこちらでお答えしましょう」


 突如発生したその声に煌夜は反射的にそちらの方を振り向いた。

 あの男――――ガイアが、こちらへと歩み寄って来ていた。


「!? お前―――――痛っ!?」


 煌夜は立ち上がろうとするが、何故か胸の辺りが針に刺されたような鋭い痛みに襲われ蹲った。

 ガイアはそれを見ておかしそうに笑いながら、


「ああ、あまり動かない方がいいよ? 君は今『力』を使った反動でボロボロになってるだろうからねえ。まあしばらくすれば痛みも収まるだろうからそんなに心配しなくてもいいよ?」

「い、いや意味が分からな………っ!」


 声を荒げようとしたが、やはり胸の激痛は絶えず襲ってくるため、仕方なく床に座り直した。ただし、ガイアを睨み付けたまま。 そんな視線を受けながら彼はわざとらしく肩をすくめて、


「そんなに怖い顔しなさんなって。もうワタシは君達に危害を加えるつもりはありませんから」

「………どういう意味だ?」


 煌夜に変わってルミアが口を開いた。

 その疑問は煌夜も同意見だった。刃物までちらつかせて、今さら安心しろと言うのも難しい話だ。まあそれを言ってしまえばいつかのルミアも似たようなものだが、うさん臭さはこちらが遥かに上である。

 そこに、


「どうもこうも、言葉通りの意味ですよ」


 三人の誰でもない、新たな人物の声が耳に入った。


「………?」


 声のした方に視線を移すと、ガイアの後ろ、距離にして一メートルほどに、一人の人物が立っていた。

 女性だった。それも煌夜とほとんど歳も離れていなさそうだ。蒼色の肩にかかる程度の流さの髪に形のよい同色の双眸。頭にはベレー帽に似た深緑の帽子を被り、それとセットのような緑のコートを羽織っている。

 現れた女性はその口から言葉を紡ぐ。


「驚かせてしまって申し訳ありません、お二人共。 私はカノン=アルセルナと申します」


 女性―――カノンはそう名乗り、


「まずは謝罪を。この度は、この者の無礼をお許しください」


 カノンはそう言って頭を下げる。突然の行動に煌夜は内心戸惑った。


「彼……ガイアーズは、もうあなた方に危害を加えるつもりはない。それは確かです」


 それから下げていた頭を上げて、


「実は、お二人を迎えに行くよう指示したのは私なのです」

「え、あなたが?」


 煌夜の声に彼女は頷いた。それから横目でガイアを睨み、


「………そもそもガイアーズ。私はお二人を『丁重』に迎えに行くよう指示したはずなのですが?」


 あからさまに責めているその声に振られた張本人はただ笑って、


「いや〜、楽しそうにしている彼らを見てちょいと遊んでみたくなったんですよ。 まあちょっとしたサプライズですよサプライズ。 ネ♪」

「ネ♪ ではありません」


 ピシリ と切り捨てた。それから一度嘆息して、


「まあ……もう過ぎてしまった事はいいです」


 いいのかな? と思わないでもなかった煌夜だが敢えて言わなかった。 それから再び視線をこちらへと向け、


「お二方、どうか私達の話を聞いてはもらえないでしょうか?」


 そんな事を言ってきた。


「……んー……」


 と唸りながら煌夜は考える。

 初対面での印象からだが、カノンという女性からは敵意は感じられない。それは確信を持って言える。だがガイアは? ………正直敵意は感じられないが何を考えているのか分からないため余計に警戒しそうだ。

 だが、ガイアがあの時口にした事。

 この二人は、何か―――自分達の知らない事―――を知っている。

 ならば、聞いてみる価値はあるかもしれない。

 ルミアに視線を向ける。渋々という感じに頷いた。


「なら、聞かせてもらえますか」


 カノンは小さく頷いた。


「それでは、立ちながらというのもあれですし」


 そう言って彼女は右手を上げ、パチンッと指を鳴らした。すると、突如彼女の隣りに大きなテーブルと椅子が出現した。テーブルの上にはケーキや紅茶も用意されていた。


「………どうなってるんだこれ?」


 もはや地球が滅亡でもしない限り驚かなくなった煌夜は呆れたように呟いた。カノンはニコリと笑って、


「特殊な手段を用いてこれらを転移させたんですよ。この部屋も特殊な方法で作り上げました。作りたてなのでまだ何もありませんが、そのうちちゃんと飾り付けもする予定です」

「そうですか……」


 世界というのは実に広いらしかった。何せ異世界まであるくらいなのだから。












「では、お話します」


 まるで家族のように四人でテーブルに座った奇妙な状況の中カノンはそう切り出した。

 ちなみにルミアは出されたケーキに一生懸命がっついている。まさか話を聞いていない訳ではないだろうが、取り敢えず空腹を満たしたいらしい。ケーキはカノンが指を鳴らせばいくらでも出てくるらしく、まさしく『タダ』のケーキバイキング状態だ。


「まず、『世界を守りし者達ディセンド』という組織があります。我々はその組織の人間です」

「ディセンド……」


 はい、とカノンは小さく頷いた。


「すでにガイアーズから聞いているでしょうが、『世界を守りし者達』はその名が意味する通り、あらゆる異世界の治安……秩序を守っているのです」

「と言うと?」

「そうですね、例えば、煌夜様が住む世界に二足歩行で鎧を身に着け、しかも人語を話すライオンが街中を闊歩していたとします。それを見て、この世界の人々はどう思うでしょうか?」

「……………。まあ、あまり良い気はしないでしょうね。少なくとも警察沙汰は避けられないかと」

「ですね。人は理解できないモノに対してあまり寛容ではいられませんから。 そして、そんな明らかに『異なった世界』のモノが絡んだ時、それをできるだけ被害を最小限にして解決するのが私達『世界を守りし者達』なのです」


 異世界専門の警察みたいなものだろうか、と煌夜は自分なりに納得してみる。


「それで、私達は『この世界』担当として『世界を守りし者達』から遣わされた訳です。ここまではよろしいですか?」

「ええ、まあ」


 結構、と言ってから彼女は紅茶の入ったティーカップを口につけた。一息して、再び話を続ける。


「私達の目的は秩序を守る事だけではありません。『狭間世界アストラル』を研究する事も、また目的の一つです」


 そういえば、ガイアがそんな事を言っていた気がする。

 煌夜はケーキをつついていたガイアへと視線を移す。彼はケーキを口へと運びながら言う。


「あの空間はどの世界にも属さない独立した世界です。だというのに、全ての世界と繋がっている」ガイアは愉快そうに、

「そもそも、一つの世界が異なる世界との繋がりを持つためにはそれ相応の準備とか手段とか方法とかがある訳です。いわゆる『魔法、魔術』だとか異世界へと続く『扉』だったりとか無理矢理異世界への『道』を作るほどの『能力』だとか様々です。そういったモノを用いて初めて異世界への繋がりが持たれる。ですが、あの世界はそういった『手順』やら『方法』やらを全て無視してただ自然のまま『繋がって』いる」


 そこまで言ってからケーキを口に放り込む。もぐもぐと食べながら、


「現在分かっているのはそれくらいですかね。あとはあの空間は“決して行く事ができない”って事くらいですか」

「…………………え?」


 ガイアが告げたその言葉に煌夜は引っ掛かった。


「行く事が……できない?」


 ええ、とガイアはようやくケーキを飲み込んで、


「“行く事ができない”………はず、なんですよ。本来はね。どのような手を使ったとしても決して繋がる事はない。全ての世界と繋がっているくせにそこに行く事はできない………とっても馬鹿げた話です。それじゃあそんな世界ないも同然ですしねえ」


 でも、と前置きして、煌夜を観察するように見つめた。


「君は“行く事ができた”。誰も行く事のできないはずの場所へと赴き、そして彼女と出会った」


 そう、煌夜は『狭間世界』へと行った。それは事実なのだ。

 何より、ルミアがここにいる事がその照明なのだから。


「だからこその『貴重な情報源』。『狭間世界』へと繋がる手掛かりなんですよ、君達は」


 そう言ってまたケーキをつつき始める。自分が語るべき事は終えた、と言わんばかりに。

 そしてカノンが引き継ぐように口を開いた。


「そして私達は、そんなお二人にお願いがあるのです」


 お願い、と言われ、思い付く事は一つだが、煌夜は首を振った。


「まあ、話は分かりました。でも、情報をよこせと言われても俺達は何もできませんよ? 俺はあそこに行ったってだけで特に何を見たって訳じゃないですし、ルミアは………記憶喪失なんですよ」

「記憶……喪失?」

「はい。自分の名前以外はまともに何も覚えてないんです。記憶を取り戻そうにも手掛かりがありませんし……」


 一応、『狭間世界』に関する記憶はそれなりに残ってはいるのだが、それは何となくルミアのために伏せておいた方がいい気がした。

 煌夜とカノンはルミアを見た。彼女は呼び出されたケーキと異種格闘技戦の真っ最中なようで、二人の視線に気づき『んむ?』と顔を上げた。話を聞いてないふりをして聞いてると見せかけて聞いていなかったようだ。いやいいよと煌夜が手を振るとやや怪訝そうにしながらもまたケーキにがっつき始めた。


「そうですか……」


 カノンは顎に手をあてて考える仕草をした。傍目からは分からないか、落ち込んでいるのかもしれない。


「では、こういうのはいかがです?」


 と、唐突にガイアが口を開いた。


「お二方には、我々の仲間となってもらうというのは」

「仲間に?」

「ええ、恐らくですが、ルミア君の記憶の手掛かりは『狭間世界』にあるのではないかと。ならば、我々がそれらしい情報を提供するから、君達はあそこについて分かった事を知らせてくれればいい。まさにギブアンドテイクな関係です」

「ああ、なるほど」


 思わず口に出してしまった。だが、確かにそれは悪くないかもしれない。


「ま、『世界を守りし者達』の一員となれば、それなりの『仕事』が待っているけどね♪」

「………仕事?」


 ピクリと煌夜が反応する。なんだかとても嫌な予感がした。


「ああ、大丈夫ですよ? 仕事と言ってもあんまり無茶な事はさせません。素人に変に掻き回されるとむしろ迷惑だしね」

「………まあ、それもそうか……」


 やはりどこかうさん臭さが漂っていたが、言ってる事は間違っていない。ちゃんと筋が通っている。


「ルミアはどうだ?」


 まだケーキを食っていたルミアは煌夜の声に顔を上げた。


「よく分からんが、私の記憶を取り戻す手掛かりをそいつらがくれると言うなら、別に構わんぞ」

「なら、決まりだな。それじゃあ、よろしくお願いします」


 よろしい、とガイアは満足そうに頷いた。


「記憶の手掛かりになりそうな情報が入った、または異世界が関わる事件が起きた場合、君達を呼ぶから。どうやって呼ぶかは………その時のお楽しみで♪」


 とても不安だった。


「それから煌夜君、堅苦しい敬語も無理に使う必要はないからね。普通でいいよ普通で。 さて、何か質問はあるかな?」

「え? うーん………………あ、二人っていくつ?」

「「企業秘密です♪」」


 すでにこの異質な空間に馴染んでしまった自分がいた。

 これから、自分は彼女と共にどのような道を歩むのか。全く見当もつかないが、


(まあ、行ってみなくちゃ分からないよな)


 だが、少なくとも悪いものにはならないだろうと、煌夜は思った。











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