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第十話:変わりゆく世界

ようやく十話到達!アクセス数が2000超えた! …………これは読まれていると解釈してよろしいものだろうか? おかしな点があってもスルーな方向で!

 最初は見間違いかと思った。

 何度も何度も懸命に目を擦っているのは眠いからではなく、そういう理由からだ。

 だが、やはり煌夜の目には校門前に、何故か男子生徒用の制服を着てつっ立っているルミアの姿が見える。

 きっとあれは幻か蜃気楼さ♪ などと現実逃避で事を済ませられるほど煌夜はこの世を甘く見ていない。

 やっぱり、いる。


(いやいやいやいや『いる。』じゃないよ! つーか何故? 何故にホワイ? 別人じゃないよなあんな特長ある奴滅多にいないだろうしけどなんで)

「天神」


 と諸事情により内心大慌てな思考を繰り返していた煌夜は自分を呼ぶ声に首を動かす。

 誠志郎先生がチョークを右手、教員用の教科書左手に怪訝そうな顔で煌夜を見つめていた。


「いきなり立ち上がってどうした? 腹痛か?」


 見れば、いつの間にか自分は席から立ち上がっていた。さっきまで船を漕いでいたはずの生徒達が奇異の視線を向けている。

 ぶっちゃけ、むちゃくちゃ目立っていた。

 クラス中の視線を一身に受ける煌夜の全身からダラダラと嫌な汗が流れてくる。


「顔色が悪いぞ。もし辛いなら保健室に行ってくるか?」


 心配そうに尋ねてくる生徒思いの優しい誠志郎先生に、しかし煌夜はああ大丈夫です問題ありません失礼しましたと冷静に答えているような暇はない。

 煌夜は汗を拭ってから、


「そ、そうですねー、じゃあちょっと行ってきてもいいですか?」

「一人で大丈夫か? 誰か付き添いは必要ないか?」

「あっ、先生! それなら私が―――」

「いいえっ! 本当に一人で大丈夫なのです! わざわざ他の生徒さん方のお手を煩わせる必要はありませんのさ! という訳でさらばっ!!」


 シュバッ! と片手を上げてあまり体調不良者っぽくない、どちらかと言えば現代に生き残った忍者の末裔っぽい俊敏な動きで教室から退散する。

 途中同行を申し出た委員長が悲しそうに瞳を伏せていたのが見えたが構っている時間は皆無。

 ついでにそれを見たクラスメイト(七割男子)から『あのクソ野郎帰って来たらボロカスにしてやる』みたいな目で見られていた気がしたがやっぱり構っている時間は皆無。

 あとで全力で謝ってから逃げようと決心しつつ、


「あーもー! なんなんだよこの超展開は!!」


 廊下を爆走しながらそんな事を叫んでしまう煌夜だった。




 玄関で靴を履き替えるのも忘れて(結局中掃きは息を吹き返す事なく殉職なさったので新調した)そのままノンストップでまだ校門前に立っているルミアへと駆ける。

 と、ようやくこちらに気がついた彼女が笑みを向けた。


「あ、コウヤ」

「あ、コウヤじゃなああああああああああああああああああああああああああああああああああああいッッ!!」


 手を置くなど生温いとばかりにバッシィィンッ! とその小さな両肩に自身の両手を思いっきり叩き付けた。

 彼女は若干狼狽しつつ、


「な、なんだ。何事だ?」

「お前! 原因お前ぇ! そこんとこ自覚なされぃ!! っていうかその制服どうした!? さては俺の予備勝手に漁ってきたな!?」

「うむ。コウヤ、驚いたか?」

「そりゃ驚くよ!!」

「そうか。ふふっ」

「…………いや、なんでそこで思惑通りって感じの満足そうな笑みを浮かべる訳?」


 妙にげんなりとした煌夜は額に手をあてて、


「…………それにしても、よくここまでたどり着いたな。あの時道なんてわかんないくらいの雨だったろ? 誰かに道訊いたの?」


 その問いに彼女は首を振った。


「いや、何となく歩いていたらここに着いた」

「……………?」


 どういう意味かとさらに尋ねようと口を開いて、

 ふと気がついた。

 何に?

 現状に。


「……………………あー」


 恐る恐る、首だけ振り返る。

 今さらだが、赤城高校は各クラスから校門が見渡せるような造りになっている。

 で、それが何を意味しているかと言えば、

 校舎の方から一年二年三年生、要するに実質全校生徒の皆さんが現在絶賛授業中にも関わらず一斉に『あれは何でしょう?』みたいな視線をこちらに送ってくれていた。もちろん一年一組も例外なく。

 ルミアの容姿が下手に端麗なのが災いした。あるいは彼女のおかしな格好か。今やクソつまらない授業などほったらかしに彼らの関心は彼女、そして恐らくは自分に向けられている。


「うわ戻るの超億劫……」


 一瞬このまま彼女を連れて帰ってしまいたい衝動に駆られたが、そんな愛の逃避行みたいな真似この状況でかませば自分のスクールライフは緩やかな破滅への道を辿る。下手をすれば一生伝説として語り継がれる事となる。『授業中に突然教室を飛び出して謎少女と愛の逃避行ぶちかました男』。黒歴史なんてものじゃない。

 なのでする事は一つだ。煌夜はルミアの手を掴んだ。


「ああもう……ルミア来なさい。こうなれば地獄の果てまで俺達はペアさ。道連れにしてくれる」

「む? おお」


 明らかによく分かっていない表情をしながらも素直について来た。

 そうして二人は好奇の権化みたいになっているであろう校舎へと向かった。










 結論を言えば、煌夜の予想は半分くらい外れた。

 もちろん生徒の大部分、と言うよりほぼ全てがその好奇心の旺盛さをいかんなく発揮していたものの、そういった欲望に身を任せて攻め込んで(と言うべきだろう)くるような事はなかった。教師達が歯止めをかけてくれたのかそれともさすがに攻め立ててくるほどの興味もなかったのか。その辺は分からない。

 分かっているのは、


「それで天神。この娘はなんなんだ?」


 今現在煌夜が直面しているこの状況だけである。

 一組生徒の皆さんが暑くもないのに汗ダラダラな煌夜とやはりよく分かっていない表情のルミアを取り囲んでいた。 あれ、これから私刑リンチされますか? みたいな事をわりと本気で考えた。

 ちなみに今の質問は生徒達を代表しての誠志郎先生のものである。


「ウチの生徒じゃないようだが、お前の知り合いなんだろう?」


 さすがに先生の目は好奇心ではなく純粋な疑問の色を見せている。

 さて、この状況をどう切り抜けるべきか。少しでも返答を間違えれば自分は皆さんから『ただの生徒』から『妄想癖のあるイタイ奴』へと一気にランクダウンである。


「えーと、ですね。彼女は―――」


 煌夜が言う前にクラスメイトのこんな声が耳に届いてきた。


「見てあの娘」

「髪ながーい!」

「っていうか超可愛くね?」

「キレイだよねー」

「ああ、あの足で踏まれたい…いや、いっそ罵倒されたい……」

「マゾがおるぞ!!」

「結婚してください」

「こっちは交際すっとばして結婚申し込みやがった!! 一目ぼれってレベルじゃねえよそれ!!」

「ああ、可憐な君の姿はまるで野に咲く一輪の薔薇」

「口説き始めた!?」

「だが僕の美しさには敵わない」

「ナルシー!? つーかさっきから聞いてりゃ全部同じ声じゃねえか! 誰だ! マゾでナルシーな変態野郎は!?」

「つーかまた天神か」

「ああ天神だ」

「忌々しいな」

「ああ忌々しいな」

「平坂だけでも忌々しいのにここにきてまた新たな美少女の登場か」

「これはもうオレ達にぶっ殺されたいって暗に言ってんのかね」

「クソ野郎だな」

「ああクソ野郎だな」

「憎しみで人が殺せたらな」

「妬みで人が殺せたらな」

「イマイマシイ…」

「アアイマイマシイ……」

「―――イトコにございます」


 後半どんどん発言内容が危なくなっている。冷たいクラスメイトの怨念に身の危険を感じた煌夜は一番無難であろう答えを返した。


「イトコ? だがこの娘の顔立ちは外国人のようだが」

「…………うーん」


 意外に鋭いご指摘だった。やはりここは現実、漫画の世界のようにはいかないらしい。


(……なんて言えばいいのかな。クラスの連中の『やっぱりオトしてきたかゴミ野郎?』みたいな視線が辛い……。 っていうかルミアは何で一言もしゃべらずさっきから首傾げてるんだろ。助けようよ、一応お前も当事者なんだから……いや無理か。 明らかに状況理解してないもんなこの顔……)


 煌夜が内心辞世の句を書き始めた時、


「あ、あの、天神くん?」


 一人の生徒が前に出てきた。平坂香花だった。

 彼女は何故か若干青ざめた顔で、


「あの、その娘は一体……?」

「あーいや、だから」


 そこでルミアは傾げていた首を元の位置に戻してから煌夜へと視線を向け、心底不思議そうに、


「なあコウヤ。さっきからこの変な奴らは何なんだ?」

「よりにもよって開口一番がそれですか!? ていうかお言葉ですけどお前の方がよっぽど変な奴だよ!」

「なんだとぉ!?」

「ちょ、待って口が滑った蹴りは止めてぐふぁ!!」


 顔面に蹴りを叩き込まれて煌夜は背中から床へと激突した。ついでに頭も打って鈍痛に悶えた。 ルミアは倒れた煌夜をビシッ! と指差して、


「下僕の分際で主に口答えするな!」


 クラスの空気が凍り付いた。


「……下僕?」

「……天神君ってそういう趣味?」

「……隠された真実ってやつ?」

「ち、違う、大いなる誤解……!」


 頭を押さえながら痛みに耐える煌夜の悲痛な抗議は誰にも届かない。


「……んにゃー。モモさん、コウさんは昔からあんな感じかにゃー?」

「さて、どうだったかな。親友であるおれにもあいつの全ては分からんのさ」

「まあ何にしても香花ちゃんにとっては思わぬ伏兵登場かにゃー? ………あれ?香花ちゃん? って熱っ!! 何これ嫉妬の炎!? 物理的に熱いにゃー!!」


 そんな会話に煌夜はゆっくりと顔を上げる。

 何やら怖い生き物がいた。


「ひ、平坂さーん……?」


 おっかなびっくりの煌夜の声に、香花はただ俯いて黙っていた。だというのに、その背後からメラメラ燃える黒い炎が見えるのは気のせいだろうか。

 ぶつぶつと『名前……』『私だってまだ……』『あんなに親しく……』と時折漏れる声が一層恐怖を引き立たせる。

 それから彼女は顔を上げて極上のスマイルを浮かべた。天使にも劣らぬその笑顔は、何故か悪魔より恐ろしく煌夜には見えた。


「天神くん?」

「イエスッ」


 思わず英語で答えてしまったが誰も突っ込まない。否、突っ込めない。彼女が怖すぎて。


「これからは、私も『煌夜くん』と呼ばせてもらいます。煌夜くんも私の事は名前で呼んでくださいね?」

「は、いや、それはいいですけども何でまた」

「いいですね?」

「イエッサッ!」


 頭の痛みなど気にもせずがばっと起き上がり ビシィッ! とどこの軍隊に所属しても恥ずかしくない完璧な敬礼を決めた。


「先生」と香花はそのままの笑みで、

「せっかくの機会です。もしよろしければ、この娘も一緒に授業を受けさせてあげたいのですが」


 ………………………………………………………………………は?


「ちょ――――!? 平坂!? 何を言って」

「煌夜くん?」

「――こ、香花!! 何言ってるんだよ! そんな事できる訳ないだろ!? ですよね先生!」


 ん? 話を振られた誠志郎先生は少し考えて、


「そうだな……どうする亜澄?」

「そうね〜。どうしましょう?」

「って、あれ? 亜澄先生!? 何でここに!? 今の今までいなかったですよね!? 瞬間移動!?」


 いつの間にか誠志郎先生の隣りには我がクラスの担任にして誠志郎先生の奥さん藤乃亜澄がいつものおっとり笑顔で立っていた。彼女は頬に手をあてて、


「授業を受けるにしても女の子が男の子の格好はちょっとおかしいかしら〜?」

「先生!? 論点がズレてるよ!? 何でいつの間にか授業受ける事前提で話が進んでるの!? いや無理でしょう常識的に!」


 え、あれ!? と煌夜はおろおろするが誰も何も突っ込まない。

 変わりに話がどんどん進んでいく。


「ハーイセンセーイ!」

「は〜い何かしら〜藤岡君?」

「僕予備の女子制服持ってまーすぐばぁ!」

「テメェ男だろうが!」

「何で女子の制服持ってんだよこの変態野郎!!」

「キサマはそれを一体どうしているんだゲス野郎が!」

「ち、ちゃいますよ! これは妹のですから!」

「テメェの場合妹は妹でも脳内妹だろうが! 義妹ですらねーし!!」

「そもそも仮に妹のだったとしてもそれを持ってきている時点でお前は立派なヘンタイだよ!」

「先生! アタシこんな事もあろうかと常に予備の制服学校に置いてます!」

「ホントにか!? それを想定しているお前は超能力者か何かか!?」


 どばぁ! と教室は生徒達の大声で爆発する。

 完全に蚊帳の外な煌夜は呆然とその光景を見つめるしかない。


「………おかしい、おかしいだろ。何だよこれ? ウチのクラスこんなに初対面の人にフレンドリーな対応ができるような奴らだったっけ?」


 それだけ呟いて、もうこの流れは止まらないと悟った煌夜はその場にへたりこんだ。










 『彼』は生徒達のいる教室がある『普通棟』から向かい側に位置する『特別棟』からその光景を見つめていた。

 視線の先には、何やら盛り上がっている一つの教室が見える。

 会話の内容までは聞き取れない。聞く必要はない。『彼』にとっては内容は問題ではない。今『それ』を受け入れてしまっている現状こそがある意味での問題なのだ。

 『彼』は懐から携帯電話を取り出した。アドレス帳を開き、ある項目にカーソルを合わせて通話ボタンを押す。

 電話に耳を当てて、数秒としない内に繋がった。


「……ああ、もしもし? ………ええ、いましたよ。二人とも。わざわざ戻って来るとはねェ。こちらから出向く手間がだいぶ省かれましたよ」


 それから電話の向こうの相手は少しだけ喋り、


「ええ、そうです。彼らは恐らく『ワタシ達』にとっての『鍵』となる存在……それはもう立証済みのはずですが? ただの人間が『あの空間』へ行って、しかも自力で『元の世界』に戻って来てしまうなんて有り得ない事でしょう? さらに『オマケ』つきとくればこれはもう確実です」


 相手はしばらく黙っていたが、やがて重々しく口を開いた。それを聞いた『彼』は笑って、


「ご心配なく。殺したりなんてしませんよ。 ただ……ちょっと遊んでみるだけですから。では」


 相手の返事も待たずに電話を切り、仕舞い込む。

 それから改めて教室を見つめて、『彼』は思う。

 平和な光景だ。

 世界の裏というものの存在すら知らない無垢な者達。

 だが別に知る事を強要しようとは思わない。知ったところで何ができる訳でもない。むしろそれを知らせないようにするのが『自分達』の役目でもあるのだから。

 『彼』は笑いながら呟いた。


「さて、君は一体どんな人間なんだろうね。天神煌夜君?」


 そうして『彼』は準備のためにその場を後にした。








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