エピローグ
「撃たれるってわかってて行くの?」
フォスティーヌが叫んだ。
「クローン化された俺が立っていた場所の近くに時空転換器が停めてある。他の俺が発生している地点を避けて近づくには、クローン化された俺の前を通らなくちゃならない」
「私を一人残して行かないで」
「大丈夫。戻ってくるから。ここで待ってて」
額にキス。
「おっと!撃つのはちょっと待ってくれよ」
クローン化したばかりの俺はぼんやりと俺を試すように見た。混乱してたんだ。記憶の混濁。
「よう!過去の俺よ、今どうしようか迷ってるだろ?」
どうやったら刺激せずにやり通せるかな?
「ここは『特異点』だ。時空が交差するところ。お前はこれから数々の試練を受けて最終的に『俺』になる。俺はループを断ち切りに来た。何度この場所と時間に来てもお前は俺を撃って先に進む。だから、俺は何とかして状況を変えたいんだ」
「何度も?」
「そう。何度も」
時空が集中してくる。この一点に。
俺は撃たれた。
崩折れる。
「銃声がしたぞ」
他の俺たちが集まってくる。逃げるクローン。
「イオ」
フォスティーヌがいち早く俺に駆け寄る。
「なんてね」
ウインク。ばっちり防弾チョッキを下に着込んできた。それでも衝撃で倒れてしまった。
「急ごう」
大元の時空転換器の誤作動の原因は、一本の髪の毛。赤毛で長いその髪の毛はシフトレバーキーに絡まっていた。それをはずして赤いレバーをひく。
周りに群がっていた俺たちが消滅してゆく。
「過去へ行くの?」
フォスティーヌが聞いた。俺ははっとする。これ以上過去に戻っては混乱が生じる。死んだ男の研究仲間が待ち受けていて、俺らはまずいことになるだろう。
「降りよう」
無人になった時空転換器が消え去った。
「これからどうするの?」
「ジプシーのキャラバンに入れてもらおう。まだ君が生まれてない時点だから、自分に会う確率は低いよ」
「……よくわかんないけど、賛成」
俺たちは一件落着だと思って笑いさざめきながら歩いていった。
☆
「レン!レン!嘘でしょう?帰ってくるって言ったじゃない」
空っぽの時空転換器が戻ったとき、レダは半狂乱だった。
他の研究員たちはレダをそっとしておいてくれた。
レダは時空転換器の中に寝そべってレンを想った。
「あらこれは!」
長い金髪。他の女の髪の毛だ!
レダはしばらくふつふつと湧いてくる怒りに身を焦がした。
レダは時空転換器を操作して、レンが出発する前夜に移動した。
シフトレバーキーに自分の髪をこれでもかと絡みつけた。
そして彼女は未来へ。
イオとフォスティーヌを殺害に向かった。
半狂乱のレダは金髪の女の子を産んだ。そして自害した。
レダの産んだ子はジプシーでフォスティーヌと呼ばれた。