1☆ジプシー
歌が聞こえる。
近づくほどにタンバリンの音、嬌声、楽器の奏でる旋律が大きくなる。
夜のとばりの中で彼らのいる場所だけ昼間のような明るさと騒がしさだ。
俺がその輪の中に一歩踏み込むと、彼らは静かになった。
「あなた誰?」
「わからない。記憶がないんだ」
「そう?」
輪の中心で踊っていた少女が取り落としたタンバリンを拾う。シャララ、と音。
「長老?」
皆が年老いた男に注目する。
「記憶が戻るまで我らと来るか?」
願ってもない言葉だった。
「はい。よろしくお願いします」
腰を折ってお辞儀する。
ははははは……!
一同は再び馬鹿騒ぎを始める。
「飲んで」
盃を少女が持ってくる。
中味は度数の高い酒だった。体が燃え上がる。
「一緒に踊りましょう」
少女が俺の手を引く。
歌と音楽と光のただなかで思うまま踊る。
松明の炎が夜空を焦がす。弾ける炎に照らされて幻想的な世界を垣間見る。
踊り明かし、朝焼けが見える頃、松明の火が燻って、皆キャラバンのテントにひきあげた。俺は男臭いテントの入り口近くに寝転がる。
万一、襲撃されたら1番にやられる場所だ。だが警戒心よりも心地よい疲れがまさって眠りに落ちた。