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リモートクエスト

「それで刻印石の素材って何?」


ヤエが道中クエストの内容について質問をする。


「刻印石自体は以前説明したように術士が術式を刻むことにより

 村の防御壁や街の街灯などに使われます」

「うん。生活基盤のひちゅず品だね」

噛んだ。必需品って言いたかったのだろう。

「その刻印石となる素材は適当な鉱石では良いというわけではありません」


「つまり、術式を組み込むために導素が一定量溜めておける鉱石が適している?」

「その通りです。術式を構築するために必要な導素を保持できる量の鉱石。

 これが刻印石になれる鉱石の条件です」

「私達はこれからその素材を集めるのか~。ワクワクさんだね」


ヤエの期待値が高まっていく。

確かに刻印石は宝石のように綺麗だ。

それを探すとなると期待が高まる。


「ん…。でも油断しないでね。洞窟にはモンスターが生息している」

「ふふ…。クノンちゃん心配してくれてるんだね。

 サイスさんに自衛できる程度の剣術は教わったし、大丈夫!」

「慢心してるからこそ不安…フィーなんて洞窟で迷子になって

 捜索クエストが発注されたことあるし」

「だから何でクーちゃんは私の恥ずかしいことを暴露するの?!」


ちなみに探索クエストはツクヨさんが速攻で解決したらしい。

E等級クエストをA等級組合員が即受注したということで

噂になったとのこと。


-------------------------------------------------------------

「おお~ここがアルグス洞窟!暗くて奥が何も見えないね!」


クエストの目的地であるアルグス洞窟に到着した。


「そうする?どうする?やっぱり松明とか準備するの?」

「ん…。それは準備が大変。これを使う」

 

クノンが手の平サイズの鉱石を2つ取り出す。

その鉱石を火打ち石のように互いに叩く。

その瞬間、鉱石が光り輝く。


「これも刻印石の一つ。術式が使えない冒険者には必須のアイテム」

「おお~眩しい~」


これは便利だ。光る刻印石を棒の先に取り付け

洞窟内部に入りだす。


-------------------------------------------------------------

「………。至って平和だ!」

洞窟内部を探索し始めて数分後、ヤエが声を出す。

まあ、気持ちは分からなくもない。

モンスターとの遭遇、戦闘。

壮大なダンジョンの冒険とかを期待していたのだろう。


洞窟内はある程度舗装されており、観光名所の鍾乳洞のような整いっぷりだ。

歩行しやすく実に快適。


「ヤエさん。一応、モンスターとかは深部とかに行けばいますが、

 私達が向かうのは浅い階層なので、危険性はほとんどないですよ」

「そ…。安全が一番。アルグス洞窟は新人組合員向けに舗装済」

「それじゃあただの新人研修施設だよ!」


地図を確認するとモンスターらしきアイコンは一切ない。

コウモリがいるくらいだ。現実世界でもお目にかかれる。

まあ、数日前まで巨人とバトってたから落差を感じるのも無理はないが。


「でもヤエさん。あと少しで良いものが見れますよ」

「良いもの?」

「そ…。もうそろそろ」


洞窟の細い道を抜け、大きな広場に出る。

眼前にはクノンの持つ刻印石の光に反射され大小様々な輝きを放つ

鉱石の群れが広がっていた。


「わあ~!すっごい!綺麗!こんな光景今まで見たことがないよ!」

「こちらが刻印石の素材となるアルグス鉱石郡になります」


ヤエが興奮が収まらないのか子ども見たくぴょんぴょんはねている。


「それではヤエさん。今回の依頼である、刻印石の素材を集めましょう。

 持ち運べる程度の大きさの鉱石をこの袋に入りきるまでの採集になります。

 壁や地面にあるものを鉱物採集の道具を使って集めて下さい」

「おお~早速実施!」


ヤエは道具を手に持ち手頃の大きさの鉱石を探し始める。

少し気になることがあったのでフィーラに質問をする。


「なあ、フィーラ。こんな刻印石の素材ってこんなに簡単に手に入るものなのか?

 いずれ枯渇しそうだが」

「海さん。ヤエさんには秘密にしてくださいね。確かに天然の鉱石は貴重です。

 ですがここにある鉱石群は土や石に導素を注入して数日放置して

 作成されたものです」

「まさかの人工物!」


養殖感覚で刻印石って増やせるのか…。

確かに今のヤエに伝えるのは酷か。

本人はすごい目を輝かせながら一生懸命鉱石を掘っている。


「ん…。ちなみに観光名所としても使われている洞窟もある」

「追加の知りたくなかった情報ありがとうクノン…」


でもなぁ…。考えれば確かにそうだ。

貴重物ならそれこそ戦争が起きかねない。

こんな近場にある洞窟の資材なんて即座にすかんぴんだろう。

数が多くて洞窟も安全ならD等級の組合員が受注するのにも適している。


真実を知らず一生懸命鉱石を掘るヤエの姿がもう

キッ○ニアで頑張る子に見えてきた。


「どしたの海くん?そんな温かい目をして」

「なんでもないよ…」

うん。これは当分秘密にしておこう。



-------------------------------------------------------------

やることねぇ…。


3人は各々鉱石を採取している。

洞窟がいたって安全なおかげで順調だが、

肉体労働で役にたてない俺は手持ち無沙汰があった。

周辺の地図を確認しても危険性のありそうなモンスターもいない。


そういえば深部にはモンスターがいると言っていたな。

地図を洞窟の深部へとずらす。


入り口付近と違い、舗装はされておらず、

やや通りづらい地形が見え始めた。

アイコンも毒トカゲやラージスパイダー等の

名前のモンスターもいくつか存在している。

どうやら奥は本格的なダンジョンになっているらしい。


数分間、地図で探索をしていると

アイコンが密集している開けた場所を見つけた。

殆どはラージスパイダーのアイコンだが、一つだけ

やたら動きが不規則なアイコンが3つある。

このラージスパイダーの大群と戦っているのがいるのか?


気になりアイコンを合わせる。

剣士"ブリット=セルジ"

術士"パニア=ザンベッリ"

銃手"アンリ=エクルストン"


どうやら冒険者が深部でモンスターと戦闘しているらしい。

早速、映像を出力した。


「ブリットさん!術式展開します!」

「了解!アンリ!次弾装填!」

「ひゃい!」


掛け声を合わせながら、連携して襲いかかるラージスパイダーの群れを

次々に討伐している。


よく通る綺麗な声で前衛を担うブリットさん。20代くらいだろうか。

ショートカットがよく似合う美人さんだ。


杖を持ち術式を展開している術士パニアは長い髪に目隠れで両目が見えない。

目が痛くならないのか?クノンと同年代に見える。


不慣れな動きで銃弾を込める銃手アンリ。

半べそをかきながら必死に攻撃を続ける。

「無理無理!」と言いながらツインテールが激しく揺れている。

年はヤエと同じくらいだろうか。


3人の戦いをしばらく観察する。

剣士ブリットさんが前衛を担い、ラージスパイダーの猛攻を避けつつ攻撃をする。

銃手アンリが中距離から射撃で援護。

その間、術士アンリが術式を溜め、展開準備が整ったら

ブリットが後退し、アンリと共に術式攻撃と弾丸のクロスファイアを放つ。


この動きをルーティンで組むキレイな動きだ。

近、中、遠距離それぞれきっちりと役割をはたしている。


「アンリ、パニア!残り残量は?」

「そろそろ導素がつきそうです」

「残弾が残り僅かですブリットさん!

 やっぱこの数を相手にするなんて無理なんですよ~」

 

アンリが涙目で訴える。

ブリットの顔にも焦りが見えていた。

経緯が不明だが、ピンチであるらしい。


しかしこの大量のラージスパイダーは一体?

周りを確認すると広場の北西の壁に

明らかに人工的に破壊されたような大穴。

そこから大量のラージスパイダーが溢れ出て来ている。

のんびり見ている場合じゃなかった!明らかにヤバい!


すぐさま周辺の地図を確認し、3人が逃走できるルートを確認する。


「突然スミマセン!南東方面の通路への道がスパイダーの層が薄いです!」


大きく声を上げる。状況を説明している暇がない。

ブリットさんが一瞬驚いた表情をするが、すぐさま2人に指示をだす。


「アンリ、パニア!南東方面直進!私に続け!」

「はい!」

「え?何ですか!?」


3人がすぐさま南東方面へと直進する。

ブリットさんが剣でラージスパイダーを薙ぎ払うようにして

道を作り、アンリが銃弾の温存なのか天然なのか無理無理と言いながら棍棒のように銃で

スパイダーを殴って応戦している。


通路まで僅かに差し迫った瞬間、後方からラージスパイダーよりも5倍近くもの

大きさのある巨大クモが迫ってきた。何だあの規格外の大きさのクモは!

アイコンを確認すると"ドススパイダー"と記載されていた。

体力もスタミナも規格外のメーターを示している。絶対に相手にしてはいけないやつだ。


ドススパイダーは想定以上の早さで3人に近づく。マズイ!追いつかれる。


「このまま仲間が死ぬのはもっと無理!」


大きな声と共に一番後方にいたアンリが銃弾を装填し地面に放った。

銃声ともに地面が爆破し、前方にいたブリットとパニアの2人が

洞窟通路まで衝撃で飛ばされる。


それを確認するとアンリは通路手前の天井に続けて銃弾を放つ。

天井が崩れ、道が完全に防がれた。スパイダーが通り抜けることは出来ず、

アンリの退路も絶たれた。


「はは…。カッコつけちゃった…。無理無理…

 死ぬのが一番怖いのに…」

 

大粒の涙を流し、その場で体を震えさせながら停止するアンリ。

2人は助かったが状況は最悪だ。

後方からスパイダーの群れが来る。どうする。考えろ!


その瞬間、俺は大きく手を猫騙しのようにバチンと叩く。

洞窟内部に大きく音が響く。


「走れアンリ!」

体がビクッ!と揺れ動き一目散にアンリが走り出した。

ヤエがアロエを走らせた方法を咄嗟に実践した。

勢いは大事!


そのままアンリは本能的にラージスパイダーの層が薄い箇所に

突っ込み、軍勢の隙間を抜ける。

地図を確認し、アイコンの少ない箇所を見つつ

リアルタイムでアンリに指示をだす。


「そのまま、右斜め方向!次そのまま直進!」

「無理無理無理無理無理!」


某漫画の奇妙な冒険者のように無理無理ラッシュを

言いつつも的確に指示通りに動き、見事にラージスパイダーの群れを

突破しつつある。


先程と違い、1人だけならこちらも集中して指示を出せる。

先程より遠いが、もう一つある出口を目指す。

可能性が見えてきた。無理じゃないぞ。

しかし、そうはさせまいぞとアンリの後方からドススパイダーが再度猛進をかける。


「アンリ!さっき天井や地面を爆破した高威力の弾はまだあるか?!」

「あと一発だけですぅ!」

「俺が合図した瞬間に後方に発砲してくれ!」

「えええ!?む…り。ええい!もうどうにでもなれです!」


ドススパイダーが差し迫る。

アンリのアイコンとドススパイダーのアイコンが近づく。

まだだ…まだだ…。


「今だ!」

「無理ぃ!」


合図と共に即座に振り返り銃弾を放つ。

眼前に差し迫ったドススパイダーの顔面に高威力の銃弾が見事に命中した。

ドススパイダーの血しぶきが溢れアンリに大量に付着した。


「後退!」

「はいい!」


すぐさまアンリに指示を出し、出口まで走らせる。

ドススパイダーは大きな声をあげ目が潰れたのか

周囲の同胞などお構いなしに暴れ始めた。

ラージスパイダーは身の安全を優先し、散り散りに逃げ出す。


アンリはその隙きに通路まで逃げ切ることが出来た。

ひとまず窮地を脱することが出来たため、アンリが速度を

緩めつつ広場から遠ざかる。


「はぁはぁ…無理じゃなかった…生きてる…」

「お疲れ様。そのまま通路を道なりに進めば上層部への道に通じてる。

 一旦、大丈夫だよ」

「はは…。クモの血だらけだ…。お風呂入りたいな…」


彼女は安堵感からか涙を流しながら通路を進んでいった。


-------------------------------------------------------------

一先ずアンリの安全は確保された。周囲に敵アイコンもなし。

広場から追ってくるモンスターもなし。

道を分断された、ブリットさんとパニアにアンリの無事を伝えなければ。

それにヤエ達にも報告を。


「とりあえず残りの2人に現状を伝えてくるよ」

「ええ!1人なんて無理無理無理!」

「とりあえず周囲に敵影はなしだから」


このままだと説得は難しそうなのでそのまま映像をオフにする。

PCのスピーカーから"むりぃぃ~~~"と高音が鳴り響いた。

すまん。


ブリットさん達のアイコンを探し、

見つけたので早速話しかける。


「こんにちは」


その瞬間、ブリットさんが剣先を俺に向ける。

うお!またか!これで異世界3度目の登場時に剣先を突きつけられる行為。

相変わらず判断がお早い。


「むっ…。君か。すまない」

「いえ…。まだ安全とは言い切れないので仕方ないですよ」

「アンリは?!アンリは無事なの?」


パニアが必死に問いかけてくる。


「ええ。無事です。俺の指示で逃げ切りました。

 現在、別ルートで上層部へと目指しています」

「はぁぁ~良かった~」


パニアがその場で脱力するように座り込む。

ブリットさんも言葉にしないが安堵の表情を浮かべている。


地図を確認する。

この2人の進むルートもやや遠回りだが上層部へ通じている。

道中にはモンスターのアイコンも何箇所か見える。


「そうだ君にお礼をしていなかった。B等級剣士ブリット=セルジだ。

 今回の件、私達を助けてくれてありがとう。恩義はいずれ返す」

「どういたしまして。まだ油断は出来ないですが。

 そういえばこの先も長いですが、大丈夫ですか?」

「ああ。私は何度かこの洞窟の探索はしているし、

 通常のモンスターとの戦闘も問題ない。

 この先の階層のモンスターなら導素を消耗したパニアを守りながらでも大丈夫だ」

「迷惑かけてすみません…」


パニアが申し訳無さそうにしているのをブリットさんが笑顔で返す。

表情から緊張感は和らいでることが分かる。

こちらは任しても問題ないだろう。


「すみません。中途半端な救助になってしまって。

 アンリさんが1人で心配なのでそちらを支援します」

「ああ、頼む。今頃、無理無理と叫んでいるだろう」


ご明察で。

元気に無理無理言ってます。


-------------------------------------------------------------

アンリの支援を再び始める前に

一旦、上層部にいるヤエ達に報告を入れておいた。

丁度、刻印石の採取が終わった頃合いだった。


クノンは洞窟を抜け、組合に救援を呼びに行った。

俺が組合に救援を要請すればよいかと思ったが、

クノン曰くなるべく早めにアンリの支援を再開してほしいとのことだった。

フィーラとヤエは下層部へと向かい、アンリとの合流を目指す。


アンリのアイコンを確認。別れてからそこまで進んでいなかった。

映像を出力し、話しかける。


「大丈夫か~」

「ふぎゃあああ!敵ぃ?無理!

 ……あ…違った~さっきの人ぉ…」

「あ~自己紹介が遅れた。海だ。よろしく」

「C等級銃手アンリですぅ…先程はありがと~」


何故かさっきよりやつれている…。

肩を落とし、よぼよぼ歩きでしわしわピ○チュウみたいになっている。

なんか悪いことしたな…


「とりあえずブリットさんとパニアの2人は無事だ。

 俺たちの仲間がこちらにも向かってるし、救援も出した。

 安心していい」

「本当?」

「ああ本当」

「じゃあ無理じゃない。もう少し頑張る」


希望が見えたのかアンリが少し元気になる。

周囲を確認。こちらのルートは危険性はなし。

依然として先程の広場はラージスパイダーが湧いている。

ん…?広場で暴れていたドススパイダーは何処に行った?


周辺の地図を確認する。嫌な予感がする。


数秒間地図を確認し、その嫌な予感は当たった。

ドススパイダーがアンリのいるルートを直進している。

まるで位置を把握しているかのように真っ直ぐに。


「あ!ヤバ…」


思わず声が出しかける。

アンリをパニックにさせないため、口を途中で閉じたが遅かった。


「え!?もしかして無理無理ですかぁ!」

「んあ…へへ」

「ごまかさないでぇ!」


「走れ!ドススパイダーがこちらに向かって来ている!」

「やっぱ無理無理じゃあないですかぁ!」


アンリはそのまま走り出す。

ドススパイダーとの距離はまだあるが、このままだと追いつかれる。

何故、アンリめがけて迷わず追える?

やつは銃撃で視力を失ったはずだが…。


「はぁはぁ…。うう…無理、疲れた、臭い、血だらけ…

 今日は厄日かも…」


臭い?血だらけ?……そうか匂いか!

昆虫の嗅覚については詳しくないが、

クモにはフェロモンを感じ取れる嗅覚があったはずだ。

この異世界と現実世界の違いは分からんが

状況から考えると間違いはなさそうだ。


いくら複雑で入り組んだ道を選んでも匂いで探知されるはずだ。

小細工は通用しないだろう。


地図を確認する。

ヤエ達が順調に下層部へと進んでいる。

この速度ならアンリとヤエの合流がギリギリ間に合いそうだ。


「一旦、この先にいる俺の仲間に指示を出してくる。

 信じてそのまま道を直進してくれ!絶対に歩みを止めるな!」

「ええ!?またですかぁ!信じますからね!信じますからね!

 嘘だったら化けて出ますからね!」


まだ言葉が出る程度には気力が残っていることが分かる。

すぐさま映像を切り替え、ヤエ達にアンリが向かっていることを伝える。


「おお!アンリちゃんがこっちに向かっているんだね!」

「でも同時にドススパイダーが向かっているのですよね?

 私達では逃げ切れないのでは?」

「ああ。だからこそフィーラとヤエに頼みがある」

「頼み?作戦があるんだね海くん。なら信じる!大丈夫!助けてみせるよ」


前向きに答えるヤエ。この自信をアンリに分けたい。

俺は2人に作戦を伝える。


-------------------------------------------------------------

「はぁはぁ…」


アンリのアイコンがヤエ達のいるポイントまで近づいている。

アンリのステータスに表示されるスタミナのゲージが残り僅かだ。


ツクヨさんが付与した術式のおかげで

各人物、モンスターのパラメータが地図に表示されるようになった。


最初は疑っていたが、アンリの余裕の無い

表情と息遣いにアイコンのメーターが連動しているとはっきりと確信をえれた。


「アンリ!もう少しだ!気張れ!」

「はぁはぁ…」


もはや返事をする余裕もない。

アイコンのスタミナゲージもごく僅かだ。


後方より目視で確認できる程度にドススパイダーが迫ってきた。

こちらのスタミナゲージは一向に減らない。

アイコンの表示には"状態:激怒"と記載されていた。

止めるのはもう無理だろう。


そろそろだ。フィーラに映像を切り替える。

「フィーラ!術式準備!」

「はい!」


狭い通路でフィーラがアンリを待つ。

フィーラの前方には全力で逃げるアンリとすぐ後方にドススパイダーが

迫ってきていた。


カウントを始める。3…2…1。


「今だ!飛び込めアンリ!」


掛け声と共にアンリが転がるようにフィーラのいる通路に飛び込む。

ドススパイダーが同時に通路へ突入しようとした瞬間、

フィーラが通路両脇から土壁術式を展開する。

ドススパイダーは見事に土壁に挟まれ身動きが取れなくなる。


「ナイス!フィーラちゃん!」


ヤエがフィーラの後方より走り出し、ドススパイダーめがけ瞬時に飛び上がる。

身動きが取れなくなったドススパイダーに剣を振るい一刀両断した。


ドススパイダーの体力パラメーターが底を尽き、

うめき声を上げながら絶命した。


「モンスターアイコンの消滅を確認。

 周囲敵影なし。今度こそ安全だろう」

「お疲れ様!アンリちゃん大丈夫?」


ヤエがすぐさまアンリに近づく。


「ぜぇ…ぜぇ…体力はもうムリぃ…」


そう言い残し、アンリは気絶した。

お疲れ様。


-------------------------------------------------------------

ヤエはアンリを背負い、フィーラと共に出口へと到着した。


「ふぅ~到着。E等級クエストなのにとんでもない戦闘になっちゃたね」

「幸いドススパイダーの体力が減っていて助かりました。

 本来なら一撃で倒せるようなモンスターじゃないので」

 

おそらくアンリの銃弾がヒットし、出血で体力が徐々に減っていたのだろう。

ヤエがドススパイダーの止めを刺す頃には体力メータは僅かだった。


「アンリ!無事か!」


丁度、ベネットさん達も別ルートから出口へ到着したようだ。

良かった。これで全員無事だ。


あとは救援に向かっているクノンに報告をするだけだ。

洞窟深部にあった人工的な大穴についても調べないと。



「クフフ…。生存者がいるの。不思議ナノ!」

「笑えない状況。準備が台無し」


突然、洞窟出口に人影が現れた。

アジア風の民族衣装を身に着けた、顔が瓜二つの少女が2人。

双子だろうか。

発言からしてあからさまにヤバい雰囲気だ。


「クフフ…クフフ…どうするノ?どうするノ?」

「穴が塞がれたら元も子もない。口封じ推奨」

「殺すノ?」

「ええ…。生命活動を止めます」


一難去ってまた一難。

休む間もなく2人の少女との戦闘が始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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