この世界に関してリモートで授業を受ける
「協力するとはいえ、何からすれば良いのでしょうか?」
フィーラさんが協力を承諾してくれた後に、疑問を口にする。
確かにそうだ。大きな目的はヤエが帰還すること。
しかし、それまでに必要な導線が全くない。
何分この世界に関して知らないことが多すぎる。
ヤエが突然、元気よく手を上げる。
「ハイ!まずは自己紹介からどうでしょう!
まずはお互いのことを知らなければならないと思うんです!」
「なるほどですね。確かにヤエさんの言う通りです。まずはお互いを知らないと。」
ヤエの提案で自己紹介から始める。
「では私から改めまして。フィーラ・クロイラと申します。
15歳。現在は大陸統括組合に所属し、術師として籍をおいています」
「水上ヤエです!17歳。職業JKやってます!趣味は漫画と小説読みです!
なんか異世界に転移したけできっと何とかなるほど!大丈夫!」
「大平 海。19歳。職業はまあ、フリーターやってます。」
「ヤエさん、海さん。よろしくお願いいたします。
長くお世話になりますし、海さんも敬語とかは大丈夫ですよ」
「そうか。じゃあよろしくなフィーラ」
JKとかフリーターについてスルーされたな。
自己紹介の後、ある程度俺たちの世界についての話について
簡潔に話した。知るべき情報のメインは現在ヤエがいる世界での事柄のため、
話し合いだけで、何日もかかりそうだ。
フィーラも同じようでまずは自分達のいる世界について知ってもらった方が
ヤエの帰還に早く近づけるとのことで同意してもらえた。
「まずは大きな目的はヤエさんの帰還ですね。
そのためにはまずヤエさんに言葉を覚えてもらわないと」
「だよね~。言葉カタコトで大変だもん。」
「ん?待て。ヤエはこの世界の言葉がわからないのか?」
「そうだよ?逆に海くんがフィーラさんと難しい会話をスムーズにしているから
断片の言葉で会話に追いつくのがやっとだよ。一ヶ月頑張って言葉を覚えたのに…」
「確かに海さんとの会話はとてもスムーズに出来ますね。
てっきりこの国の言葉をヤエさんは覚えたてで海さんは
喋れるだけかと思っていました」
どういうことだ?簡潔に状況を整理してみる。
ヤエにとって異世界の言葉は都合よく日本語に聞こえていない。
おそらく転移した一ヶ月間で村の人の言葉を身振り手振りで覚えたのだろう。
フィーラに出会ったのは本日。外国人が他国の言葉の喋れる割合が違う程度にしか
感じられなかったのだろう。
考えてみれば当たり前のように受け入れていた。
本来であれば異世界なのだ。都合よく言葉など通じる方がそもそもおかしい。
小説だと意味の無い設定だから描写されていないだけだ。
「フィーラ。何かこの国の言語を見せてくれないか」
「わかりました」
フィーラが木の枝を使い地面に文字を書いていく。
見慣れない文字が地面に描かれていく。
しかし何故か自分は読める。どういうことだ?
「見慣れない文字だね~」
「"こんにちは"と書きました。言葉をある程度覚えましたら文字も覚えましょうね」
「俺は何故かこの文字が読める。だが俺たちのいる世界には無い言葉だ。
フィーラの言葉が普通に俺たちの母国語の日本語に聞こえるんだ」
「もしかしたら術式の1種なのかもしれません。
言語を何かしらに変換して聞こえるようにする。もしかしたら…」
途中まで声を出し。フィーラは詠唱を始める。
杖を俺に向けたあと、ヤエの方へ向ける。
「どうですか?ヤエさん。私の言葉がわかりますか?」
「!! 日本語で聞こえる!フィーラの言葉がしっかりと分かるよ!」
「成功みたいですね。ヤエさんの言葉がしっかりと分かります」
その言葉と同時にヤエが膝から崩れ落ちる。
「私の…。私の一ヶ月の努力は何だったんだよぉぉぉぉーーー!!」
会話において相当苦労したのだろう。
努力の結果が異世界のとんでも術式であっさり解決したら心も折れるよな。
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フィーラがかけた術式は、能力共有と感情伝達の複合術式らしい。
俺のリモートで通した会話は異世界との言語で変換される。
その能力が術式であると予想し、能力の共有術式を実行。
出た言葉を現実世界から異世界言語に変換するだけなら一つで済む。
しかし、異文化による言語の意味合いを測るすべがない。
お礼の言葉も罵倒も言葉選びによって冗談か真剣なのかも変わってくる。
感情伝達の術式を加えることによって、相手の発した言葉に感情を
乗せることにより、意味が伝わるようになるというわけだ。
術式便利過ぎない?
「そんな万能なものでもありませんよ。制約は色々とありますし。
導素を含めて、術式については徐々に教えますね」
「それでもこうやってフィーちゃんとお話出来るのはありがたいよ~」
「フィ…フィーちゃん?」
「フィーラだからフィーちゃん。この世界だけでなくフィーちゃんとも仲良くなりたい!」
そう言い、ヤエはフィーラに抱きつく。
フィーラは少しの戸惑いと嬉しさが混じった顔をしている。
ヤエは相変わらずグイグイいく。アッパー系コミュ障である。
「早くも言語の問題も解決したし、次の目的を決めないとな」
「そうですね。刻印石の件もありますし、情報も集めたいです。
そのため、まずは私が住む街"ツバィト"へ行こうと思います。
人も多いですし、組合で情報を集めることも出来なくはないと思います」
「おお!街!フィーちゃんの住んでる街が見てみたい!」
とりあえずの次の目的は決まった。
フィーラの住む街"ツバィト"へ。
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と…言いつつも辺りは薄暗く、夕日が見えていた。
ここから街までは半日かかるとのことなので、出発は明朝となった。
明日この村を発つことをヤエは村人達1人1人に一軒ずつ周り伝える。
ヤエはまだお世話になったことへの恩返しが出来ていないことが申し訳ないようで、
ごめんなさいの謝罪とありがとう。この御恩はいつかという感謝の言葉を述べた。
昨日助けたアロエはヤエになついていたらしく、ずっと泣いていた。
ヤエがこの村の一ヶ月どういった生活を過ごしていたかは
村人達の反応を見ればよく分かった。根明な性格のヤエのことだ。
きっと元気よく大丈夫と言い、村に上手く馴染んでいたのだろう。
アロエ一家はフィーラも快く迎え入れ、村での最後の晩を迎えた。
余談だが、村の子供達に質問を受ける約束だっったが、
俺の顔を見て、「なんか普通だな」と言い放ち例の果物へと興味を移していた。
俺だって傷つくからね。
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「それでは行きましょうか」
朝を迎え、村を発つことになった。
村人達数名に見送られヤエは泣くのを必死に堪えていた。
道を歩く二人の姿をPCで通して見ながら昨日調べた
リモートの操作方法について整理していた。
異世界の映像を見ることが出来るこの窓は
いつでも閉じる事が出来て、開くときは右クリックでメニューが出ることが分かった。
また操作方法についても映像にマウスを合わせ映像操作を選ぶと
マウス操作でカメラの操作が可能である。地図のアイコンをクリックし、追跡を選択すれば
操作せずとも自動でアイコンの人物を追ってくれる。
昨日、フィーラが投影術式を付与してもらったあとに出てきた項目である。
また、デスクトップに謎のアイコンも作られていた。
このアイコンをクリックすると異世界の地図が表示される。
現在見ている地図、映像は一度閉じてしまっても再度起動できるというわけだ。
親切すぎるし、完全にWind○wsのUIに合わせて作られており便利なのだが
都合が良すぎて少し困惑する。まあ、細かいことは気にしないで良いだろう。
使えるものはありがたく使わせてもらおう。
村から出て森の道を抜けると平原に出た。
平原も簡単に舗装されているのか、草が刈り取られ道になっていた。
「そういえばフィーちゃん。街までは徒歩で行ける距離なの?」
「いえ。このまま道に沿って行くと分かれ道に付きます。
定期的に荷物を運ぶ輸送馬車が来るので乗せてもらいましょう。
徒歩で行くには少し遠いですからね」
「おお!馬車。初めて乗るかも」
多少の雑談をしながら、昨日気になったことについて話を振る。
「そういえばアロエが禁忌の森に入った件について気になるな」
「そうですね。一昨日アロエさんが禁忌の森に入った際、
アロエさんは不思議な匂いを嗅いだ後の記憶が飛び、ヤエさんの声を聞くまで
意識が戻らなかった。気づいたら禁忌の森に入っていた」
「私は禁忌の森についても知らなかったからだけど、アロエちゃんはそもそも
刻印石の障壁で入れないの知ってたから率先して入るのは違和感があるね」
「そもそも気になっていたが、禁忌の森というのは何なんだ?」
「簡単に言えば一般の人間では手に負えないモンスターなどがいる森のことですね。
危険と隣合わせですが、あの村は木材で生計を立てていますから」
「なるほど~。熊やイノシシが出る山の近くで住む人達みたいな感じか~」
「ゴブリンとか棍棒とか武装してたけどな」
熊とは別の怖さがある
「どちらにしても刻印石の術式を解除した術者の目的はまだ不明ですね。
組合に報告して調査員を派遣してもらいましょう。
万が一に備えて近場の警備隊にも要請して警備をしてもらうように依頼したので
刻印石が再度解除されても最悪の事態は回避できるはずです」
「先のことを考えての行動!フィーちゃん仕事が出来る娘!」
謎と不安はあるが、今はそうするしかないのだろう。
話をしつつ歩くうちに分かれ道についた。
看板が立てかけられており"ツバィト""コルス""ザースト"の文字が
それぞれの道方向に矢印で記載されている。
見慣れぬ文字なのに意味が分かるのは不思議な感覚である。
「少し待てば馬車が来ると思いますので、待っている間にこの世界について
話をしましょうか。とはいえ何から話せばよいのか…」
「はい!術式!術式が気になります!魔法!魔法!」
ヤエが目を輝かせて答える。さながらしいたけ目の如く綺羅びやかだ。
現実世界にない技術。確かに気になる。
「そうですね。確かにこの世界の生活の一部ですし、
もしかしたらヤエさんの転移の原因に近いかもしれませんね。
では早速話しましょう」
フィーラの術式に関する異世界リモート授業の始まりだ。
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「まずは全ての基礎となる導素について解説しますね。
ではヤエさん。自然とは何だと思います?」
「当たり前すぎてわかりません!」
少しは悩め。
「そうだな…。生物、植物、天災。空気とか?
そういった意味だとヤエの言うように当たり前というのは正解なのかも」
「そうですね。私達が生きる上での出来事は当たり前のようにあります。
水、雷、風等の自然。植物がある自然。生物がいる自然。あるがままの存在です。
それらの全ての元となるのが導素になります。
導素から枝分かれ様々な自然を発生させる導く力の素。故に導素です」
「なるほど。超万能なエネルギー」
多分分かって無いよね?俺もいまいち分からんが。
「まあ、そうですね。導素は万能エネルギーという解釈で良いと思います。
この力については解明されていないですし。
ではこの万能エネルギーの導素を操れる力があったとしたら便利だと思いませんか?」
「確かに便利だな。……それが術式か!」
「正解です。導素を変換し、あらゆるものへと変化させる。それが術式です。
それでは早速術式を使ってみましょう」
「おお!待ってました!ワクワクだね!」
フィーラが杖を持ち、前に掲げる。
数秒後、杖の先端から水の塊が出来始める。
おお!RPGの世界だ!
水の塊が一定の大きさになり、その後その塊が
杖から離れ前方へと勢いよく射出される。
弧を描きながら遠くへと飛び、地面へと落ちた。
「これが術式の基礎となる水鉄砲です」
「「名前が残念だ!」」
思わずヤエとツッコミがシンクロする。
途中までカッコよかったノニナー。
「ああ…えっと…ごめんなさい。実用性重視なので格好良さとか語呂の良さとか考えてなくて」
フィーラがしどろもどろで焦り始める。なんだか申し訳ない…。
「スミマセン。どうぞ続けて」
「そうですか…。では改めまして。術式は導素を使用し、それを変換する為の技術です。
私が先程、水を飛ばした術式は複数の術からなります。
まず導素を水に変換する術式。水を集め圧縮する術式、重力固定術式。
一定以上の水の塊が出来ましたら、風の術式を展開させ塊を飛ばします。
こういった複数の術式を重ね合わせた複合的なものが"水鉄砲"を完成させますん…」
最後の言葉が小さくなったうえに噛んだ。
先程の名称に対するツッコミが尾を引いてるようだ。
「ごめんねフィーちゃん!さっき残念って言って。良いよその名前」
「ごめんなフィーラ!俺たちが全面的に悪い」
「いえ…良いんです。お二人のお気遣いはありがたいです。次はいい名前を考えておきます…」
ああ…心が痛むぞ!フィーラの優しさが辛い。
「えっと…。とにかく術式に関してはこのような感じです。
分からないことはありませんか?」
「はい!フィーちゃんが術式を使用するとき、詠唱を唱える時と
唱えないときは何故ですか!」
「良い質問ですね。実は術式を使用する際に詠唱は不要なんです。
では何故詠唱が必要なのか。これも見せた方が早いですね」
フィーラが再度、杖を掲げる。先程と同じく杖の先端から
水の塊が集まる。しかし先程と違い水の塊が集まりきる前に射出をした。
勢いはなく1m程しか飛ばなかった。
「これは術式の溜めを短くしたものです」
次にフィーラが再度、杖を掲げる。同じく水の塊ができる。
今度は溜めが長い。すると突然水の塊が目の前で爆ぜた。
バラバラに水が飛散る。
「今のは術式の溜めを長くしたものです。
短すぎると勢いは出ず、長いと圧縮がかかりすぎて爆ぜます。
丁度良いタイミングで術式を溜め、放出することにより先程のような
勢いよく遠くへと飛ばせる実用的な術になるのです」
「……つまり詠唱はその丁度よいタイミングを計るための手段か!」
「正解です!1秒2秒と数えても人によってはズレが生じます。
詠唱なら一定の早さで唱えればタイミングが合わせやすいです。
何度も反復し、練習すれば感覚が備わるので詠唱も不必要になっていくんです」
「詠唱覚えるのが大変そうだね…」
「私に術式を教えて頂いたお師様は秒でタイミングを計ってましたね。
人によって様々な手法で術式のタイミングを覚えていますよ」
術式は複数の術を合わせて発動させるものか…。
万能では無いというのはこういうことか。
何かを実行するために必要な術を構築して再現する。
空想を実現するための構築と想像力が無いと空想のままなのか。
「フィーラ。確認なのだけれど人を転移させるための術式は
この世で確立はされているのか?」
「残念ながら確立はされていないです。投影術式は導素の道を作り
目的場所の映像を導素に変え、術者へのもとへ投影させます。
しかし、物理的な物を移動させる術がなくどういった構築をするのかは
研究段階になります」
「ああ。だが道筋は見えた。導素を通した道が作れるなら、
今、俺がこの声を映像を届け、そしてこの世界の声と映像が
俺の元に届いているのならば、俺のいる世界とそちらの世界、
互いに導素を経由して干渉しあってるということ何じゃないか?」
言い方を変えるなら干渉が可能。
フィーラが投影術式を俺にかけることが可能だったんだ。
つまり互いの世界は一方通行ではないことは証明される。
「!確かに海さんに投影術式をかけられました。
転移術式さえ構築できればそれも可能なのかも」
「確かに私はこの世界へ転移してきたわけだしね~。
きっと転移は可能なんだろうね。
うん!希望が見えてきた!きっと何とかなる!大丈夫!」
現実世界への帰還の希望が見えた瞬間だった。
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「それにしても遅いですね…」
「フィーちゃん。馬車は普段だったら着いてるの?」
「そうですね。往来は多いのですぐに来ると思ったのですが…。」
「気になるな。少し見てくる」
俺は地図をずらし、馬車のアイコンがないか確認する。
少し離れた先に馬車のアイコンともう一つアイコンが見えた。
馬車は動かない。何かしらの理由で停止しているのか?
馬車の近くの映像を出力する。
映像には馬車が壊され、怪我を負った人が二人。
そして目の前には人一倍大きな体をした茶色い巨人がそこには写っていた。
読んでいただきありがとうございます。