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悪魔祓いの旅路録  作者: 日朝 柳
真夜中のダンスホール

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97/110

洞窟の先で

残念ながらすぐに出口につくことは叶わなかった。

虫の恐ろしさに気がいかなくなるくらいまで歩いてもたどり着かないうえに、たいまつの火が消えてしまうなんて惨事まで起こる始末。

ちょうどいい頃合いだと思い、洞窟の通路で野宿をするという事態に陥ったのだが案の定テントを張るなんていうことはできないので地面に寝ることになった。が、それがまた大変なことだった。

最初は火をたいてご飯を作ったことでおとなしかった虫たちも、寝る前になって火が消えた途端再びその恐ろしい音が耳に飛び込んでくる。

アイラは一度とてつもない悲鳴を上げたと思ったら急に声がしなくなって、見ると気を失っていた。ヒナなんてアイラの声に気づかないくらいには熟睡を決め込んでいて、実質起きている僕だけが取り残されて二人が起きるまで見えない恐怖におびえ続けた。

「んっ」

「やっと起きたか」

アイラが目を開けると、そこには酷く眠たそうな顔のリルが目の前にいた。後ろではどこからくべたのか分からないが火が洞窟の中を煌々と照らしている。

「おはようございます。ところで、この火はどうやって?」

「ああ、それなら気にしなくていい。僕のマントを少しずつ燃やしていったんだ。僕のおかげで一晩中虫は寄って来なかったぞ!」

と、自慢げに言ってはいるが目は岸に打ち上げられた魚のようになっている。このままではまずいと思ったアイラは、リルの持つ杖を使って後頭部を叩いた。


ーーっ。

ザッ、ザッ、ザッ。

目が覚めたにしては体がとても軽かった。否、実際僕の体は誰かに支えられていた。

「あっ、起きましたか」

支えられていた両腕が外される。靴はけっこうな長さ引きずられていたおかげで中にまでかなり入っている。靴を脱いで逆さまにしながらここまでの経緯を聞いた。

「それで、僕はいったいどのくらい引きずられていたんだ?」

「たぶん半日位じゃないですか。太陽も月も見えないのでなんともいえないですけど、すごく疲れていたんですよ。だって途中で休憩したときもいろいろ試してみたんですけどびくともしなかったんですもん」

そのいろいろが気になるところではあるが、この際まあ気にしないでおく。

「そんなに歩いたのにまだ出られないのか?」

「そこまで進んではいないですよ。だって二人で肩にかけて行ったんで。でも確かに道の先に明かりも今のところ見えないですね」

だがなんの意味もなくこんな洞窟に繋ぐ魔方陣を敷く意味が分からない。何か見逃していることがあるはずだ。

「二人は、洞窟に入ってからここに来るまで気になることはなかったか?些細なことでも何でもかまわない」

「私は特に何も見てないです。入ったときに魔石が壁に埋め込まれたいたけど、あれは外の魔石と連動していると思うから。見たのはそれくらいかな」

「アイラは?」

「うーーん、あんまり覚えてないです。へへ」

まあ仕方ない。怖いのが苦手なのだからそこまで意識を割くほど落ち着いていなかったんだろう。

「となると、現状ふつうの洞窟と違うのはその魔石だけか」

ランタンの火が保つのも長くて一時間。これがなくなれば暗黒の中洞窟をさまよう羽目になる。それだけはなんとしても阻止しなくては。

「やっぱり一回戻ろう。これ以上進んでも何か収穫が得られるとは限らない。その壁に埋め込まれていた魔石に賭けてみるしかない」

「でもどうやって戻るんですか。リルの魔法は今、使えないんですよ」

少なくとも最初の場所に戻るには走ったとして、半日かからないにしても数時間は絶対にかかる。魔法が使えていたら電光石火で一瞬なのに。

「いや、一つだけ方法がある」

僕は荷物の中から一つの石を取り出した。

「僕がここに魔方陣を刻んで魔力を込める。幸い、僕は魔法は使えないけどここに入ってきた時みたいに魔力を込めることはできるらしい。まずは魔法が発動するかが問題なんだけどね」

じりじりと揺蕩う火を前に僕は丁寧に魔方陣を刻んでいく。チャンスは一度きり、細心の注意を払って掘り進める。

「できた……」

出来上がった魔石は初めてにしてはきっと出来がよい方だと思う。けれどそんな総評を述べるほどタイムリミットに余裕はないらしい。

「火が消える。さあ、早く」

二人の手を握って僕は魔力を石に込めた。火が消える前に入り口について着いてしまわないと壁に激突することになる。

「行くよ。今の僕の魔法じゃ減速とかできないからアイラ、いざというときは鎖でどうにか勢いを殺してくれ。というか入り口まで行っても突っ込む事になるから頼んだ」

「はい、頼まれました!」

深く深呼吸する。前回の時もそうだったが、魔力を込めるというのはほとんど魔法を使うのと同じ感覚なだけに本当に死んでしまわないかと思ってしまう。深く息を吐く。

「雷魔法、電光石火」

雷が音をたてて僕たちの体に帯電していく。そのチャージ期間を経て、三人は勢いよく飛び出した。ランタンは火の灯っている部分が動く勢いでカラカラと音を立て、すぐに火は消えてしまう。だが何も見えないはずの道ではあるが、リルは洞窟の通路が直線上に伸びていたことだけを頼りに感覚でまっすぐに進むことが出来ていた。

だがそんなのはもって数秒というところで、すぐに壁へと激突するわけだが、アイラの鎖魔法によってできたただの鎖のカーテンによって衝撃をやわらげ、壁にぶつかりながら進んでいく。

壁にめり込みながら進んだ数秒の後、ついに魔石は限界を迎え崩壊する。それとともに勢いだけ残った三人はそのまま鎖のカーテンに突っ込む。

鎖なのでぶつかり心地は普通に痛いのだが、岩肌にぶつかるよりは幾分かましだろう。

「二人とも、大丈夫か」

どうやら無事らしい。僕が鎖との間に挟まることでクッションの役割を果たしてダメージはすべて僕へと受け流されたみたいだ。体に付いた砂埃を払ってあたりを見回す。ランタンが消えてしまったせいでここが最初の地点なのか道の途中なのかすら分からない。

「炎魔法、炎刃」

ヒナの持つ小刀が火をまとうことでランタン代わりになった。あまり使い慣れていないだろう魔法を使うのは申し訳ないが、とても助かる。そしてこれでアイラとヒナの顔をしっかりと確認することができ、改めて無事を確認できた。

「師匠、最初の地点まで戻れたみたいですよ」

アイラが立っているすぐ後ろの壁には例の魔石があった。どうやら作戦はきっちりと成功を収めることができたようでなによりだ。

「じゃあ、早速触るよ」

と、手を伸ばしかけたときそれを塞ぐ手が現れた。

「私がやります。師匠は魔力を使いすぎです。ただでさえギリギリの使い方をしてるんですから、もっと危険と隣り合わせの事をしているっていう実感を持ってください」

「アイラの言うとおり」

ヒナの追撃も相まって仕方なく手を引く。時渡りができるというのが常になっていて、僕の死に対する感覚はだんだんと鈍感になっているのかもしれない。むしろ魔法を実質的に使えなくなった今だからこそやり直しのきかないれっきとした冒険と言えるのだろう。

「じゃあ、任せた。転移先がどこかは分からないから鎖魔法が打てるようにはしておくんだ」

「分かってます。じゃあ行きますね」

流れた魔力は壁を伝って、照らされていない場所を青白く光らせる。四つの点が同時に光り、それが繋がると中央に向かって集まる。そうして次々と延びる線が形を作ってできた魔方陣はあの空間の歪みを作り上げた。できた瞬間に歪みの内にいた三人は何の心構えもなく、その中へと飛ばされる。


目を開けた先は、明るくて開けた場所ではなかった。かといって、洞窟のような暗黒でもなかった。オレンジ色の街灯の微弱な光が、あたりを仄暗くさせていて少しだけ不気味ではある。

たくさんの建物が建ち並ぶこの町は、地上なのか地下なのかよく分からない。上を見ても月は見えないし、かといって岩肌が見えるわけでもない。壁もないここは一体どこなのか。

そして何よりこの町が異様な空気を放っているのは、人がいない。シンプルなこの理由こそが原因だった。


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