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悪魔祓いの旅路録  作者: 日朝 柳
雪に這い寄る白い影

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リルのやらかし

「はぁ〜」

気だるそうな声でアイラはため息をついた。

張り切ったはいいものの、アクエリアスへ着た道を引き返そうとして思い出してしまった。ここへは船を使ってきたことを完全に忘れていたのだ。

街の人に次の船はいつ来るのかと尋ねると、二つ返事で「二週間後」とだけ教えてくれた。こんな時に少人数できた弊害が出てしまうなんて。瑠璃がいたらどうにかしてくれるだろうに。

「でも行けないものは仕方ない。今日のところはこの街に泊まって……」

そう呟いて財布を開いて僕は絶句した。

いつからこんなに考え無しになってしまったのだろうか。自分の馬鹿さ加減に頭を抱え込む。

「どうしました師匠?」

その純新無垢な瞳に当てられるとさらに罪悪感が増す。それもこれも僕が悪い訳だが。

「残念だが、今日は宿には泊まれない。……お金が無いんだ」

二人ともハッとして無言になる。僕はヒナのふるさとに行けばあわよくばご飯や泊める場所を貰えると勝手に期待していた。それだけに二人分が何泊か出来るかのお金と杖だけを持って優雅にここまで来た。

それでこうなればお金がないと言うのは必然であり、少ないお金を宿泊に費やすわけにもいかず稼ぎどころを探さねばならない。

「そうだ。アクエリアスに通ずる道を見つけられれば」

そこにさえ行ければ意外とどうにかなる気がする。もしかしたらライブラと何かしらで連絡をとる手段があるかもしれない。

「でも普通の人には見つからない場所にあるんじゃないですか?」

どうにかならなかった。アイラの的確な一言はどうにか見つけた一手をへし折った。

考えは振り出しに戻り、どうしようかと悩んでいるとすごすごとヒナが話し始める。

「じゃあシェルミを追いませんか」

「またどうして」

急に三人の間に穏やかじゃない空気が流れる。物騒だ。シェルミとはそれほどの、僕達に積年の恨みとも言えるほどのものを置いていった。

「彼の魔導書があればアクエリアスに辿り着けるんじゃないですか。口にした言葉とは反対になるんですよね」

なるほど。それは一理ある。けどそれが出来たらあの魔導書はなんでも出来るという事になる。絶対に魔力や限度が決まっているはずだ。

「まぁ、それくらいの願いなら僕たちの魔力を持ってすれば出来なくもないような気がする。でも、シェルミが逃げているということはここにはそれなりにアテが彼にもあるということだよ」

「分かってますよ。でも、リルさんなら負けないですよね」

言ってくれる。そんなことを言われたら俄然やる気が湧いてきた。元々その考えが無かった訳では無いだけに彼女も十分聡明らしい。これまで隠してきたのだろうか。

ちなみに、アイラは話に途中からついてこれてない。「?」みたいな顔をしてる。

「アイラもそれでいいな」

「え、あ、はい!師匠が行くところなら何処でも」

話は理解してなくても意思は決まっていたらしい。

「じゃあ行こうか。ヒナ、ここら辺で治安が悪い所ってある?」

「それなら、かなり北にあるヘランドスという街は小さい頃、凄い虐殺があったって聞いたことがあるような気が」

ならそこで決まりだ。

「二人とも、ちょっとマントを買ってきてくれない?」


早速買ってきて貰ったそれに僕は魔法陣を描いていく。得意ではないが、魔法の使えないあの道を通るよりは早く着くはずだ。

「出来た。それじゃあこれを着てね」

マントを身に着けて三人が並ぶとまるで姉妹のよう。誰一人として顔は似てないけど。

「じゃあ準備してよ。重力魔法、サイドグラビティ」

マントが光を放って魔法が発動する。背中から何かに押されるようにして三人は北へ飛ばされる。

「うわっ!」「っ!」

やっぱりこの魔法、使い方難しいな。これを使いこなすにはバランス感覚がかなり必要で、リル自身もあまり上手く“飛べ”ない。だが、意外な才能を発揮した少女が一人。

「これ、気持ちいいですね!」

器用に空を飛ぶヒナが無邪気に笑う姿が目に映った。

風で靡く髪と青い空がよりその笑顔を引き立てる。

反対側を見ると、上手く飛べずに苦悶の表情を見せる少女、つまりアイラが進行方向に背を向けて飛んでいた。それは逆にどうやって飛んでるんだ。

風の道も中腹に差し掛かったところでヒナはリルの様子がおかしいことに気づく。

「リルさん、どうしました?具合が良くないように見えるんですけど」

よく見ると真っ白だった肌はどこか青白くなっていて、とても弱々しい。

「っ、正解だ。今僕は体調がすこぶる悪い。たぶん、もう、もたない」

思っていた以上に魔力が持っていかれる。魔力量にそこそこの自信があるリルにとっては本当に久方ぶりの魔力切れだった。感覚的にもう少しで魔力が無くなる。切り替わるように意識が無くなった。

リルはその言葉を残すとフッと意識を失う。それと同時に描かれた魔法陣は光を失って、三人は重力に従って真っ逆さまに地面に向かって落ちていく。

「うわぁーー!アイラ、どうにかしてよ、どうにか!」

するとさっきまでマントのせいで顔が見えていなかったアイラがその溌剌さを見せる。すぐにリルが気を失っていることに気づいて声を張り上げた。

「師匠!どうして倒れてるんです!」

ヒナの頼みを華麗にスルーしてアイラはリルの心配をして彼女に手を伸ばそうとする。だが、そんなことをしている場合は今ない。伸ばした彼女の手を無理やり握ってもう一度強く。

「そんなことを言ってる場合じゃないよ!今、落ちてるんだよ!」

「え、うわぁーー!?じゃあ杖を、ってあんな所に!」

彼女の杖は所謂手持ち型の為、腰に下げれるタイプの軽いやつだ。つまりは彼女の杖は懐から風によって空に舞っている。

あ、終わった。

そんな絶望的な顔をこちらに向けてくる。血の気がサーッと引いていくのが頭から落ちているにもかかわらず感じられた。

もう高さはそれほど残されていない。杖は呑気に、マイペースに落ちている。人生とはこんなに呆気ないものなのか。どうせ何か起こるのではないかと私自身勝手に期待していたけど、もう高さは10メートルない。

目を瞑っておこう。死に様で目を開けていたら怖がられるだろうから。

次の瞬間、アイラの「あーーーーーーー!」という声と共に地面を揺れ動かす音が響いた。


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