説得
「すぐに彼女の魔法を解くんだ」
あくまで冷静に、そして慎重に。相手を威嚇しないように話を進めていかなくてはいけない。
「まぁそんなに緊張しないでよ。僕がなんでこんなことするのか分かる?」
「そんなことはいい、早く彼女の魔法を」
カチッ。
目にも止まらぬ速さでポッケから取り出したナイフをアイラに突きつける。
「あんまり急かさないでくれるかな?この場で主導権を握ってるのは僕だってこと忘れないでね」
嫌になるほどのにやけ面がだんだんと怒りを蓄積させていく。彼がこの状況を楽しんでいるのにも腹が立つ。
落ち着け、落ち着くんだ。相手のペースに呑まれたら負けだ。もう少しだけ我慢しなくては。深呼吸をして心を研ぎ澄ます。彼と話を続ける。
「分かった。君の目的は何かってことだね。.........人の上に立つ喜びを感じたかったからって言うのは?」
「全然違うよ。もっと単純」
首を振って彼はつまらない回答だと言うような顔をしている。 犯罪者の思考など考えたくもないが、彼女を助けるためになら考えなくては。
「私利私欲を満たすため?」
彼の顔は納得の顔ではない。どうやら正解は他にあるようだ。焦れったくなったのか、彼は自ら回答を明かす。
「もう、全然ダメだなあ。正解は、人を殺したいからだよ」
その一言で空気が一瞬にして固まる。重くて苦しい死の快楽の香り。そんなものが彼からは漂っている。
その固まった空気を解いたのは教会への訪問者だった。突然扉が開かれたと思うと、てくてくとトウのもとへと歩いていく。
「ちょっと待って、その人は人殺しだ。近づいたら危ない!」
そんなリルの必死の言葉も彼女には届かない。トウのそばまで歩いていくと、彼女はこちらを向いて動かなくなる。
瞳孔は開いたままで瞬きもせず、ただずっとこちらを見ている。まるで死んでいるかのようだ。
「彼女もお前が魔法をかけたんだな。」
「そうだよ。少しそこで見ていてくれ、面白いものを見せてあげるよ」
そう言って彼はアイラに突きつけていたナイフを下ろしたかと思うと、今度は彼女へと向けた。
「やめろ!」
言うよりも早く彼は動く。彼がナイフを振り下ろした先には彼女の胸があった。
結果は言うまでもない。胸の皮と肉が引き裂かれ、そこから鮮血が空へと舞う。飛び散った血は彼にも被るように付き、トウはその顔をより一層紅潮させていた。
「あぁ〜〜///最っ高!」
トウの高らかな笑い声が教会に響いた。




