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悪魔祓いの旅路録  作者: 日朝 柳
海底2万マイルの旅

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70/110

スクルトの奥の手

彼女は何処までも逃げていく。スクルトは追いかけ続ける。廊下は長くない。すぐに何処かの部屋に出た。

彼女は振り向いてこちらに向かい合っていた、そこには二人の少女が立っていた。

「姉さん、この人が妹を」

「ん、そうか」

それを聞いた途端に空気が熱くなった。否、それは現実として熱いのだ。

「なっ!」

「私の魔法領域内に入った時点でお前の負けは確定した。大人しく私の目的を見ていろ」

一瞥して彼女の持っていた本を受け取ろうとする。

だがこちらにも託された思いがある。それを蔑ろにする訳には行かない。

「まぁ待ってよ」

ポケットに忍ばせていた魔石を割る。

「氷魔法、氷花」

地面に氷でできた花が咲き乱れた。熱による空間支配から逃れ、咳き込む。

「ほんとにな厄介だな、熱魔法」

完全氷魔法の完全上位互換は伊達じゃない。氷だけで到底太刀打ちするのは無理だというのは分かっている。だからこそスクルトは万が一のために魔石をいつも多めに持ち歩いている。

「そんな小細工では私達の魔法には勝てない」

「熱魔法、ジェットスチーム」

逃げ延びた少女の杖からは高温の水蒸気が射出される。スクルトが杖を振るうと、天井に咲いた氷の花が一輪舞い降り、それが巨大化して盾となる。

水蒸気が徐々に盾を溶かしていくが、負けじと盾も増えていく。先に相手の魔法が終わり、攻撃はスクルトに届かない。

「ならもう一人はどうだ」

そう言って姉の方の少女が杖を取り出して同じ魔法を唱える。杖から出たその水蒸気は妹のものとは桁が違った。

一瞬のうちに3枚は破壊され、4枚展開していなければスクルトは今頃爛れ死んでいた。

「氷魔法、氷獣」

ネズミのような小さな氷が獣を形造り、少女の方へ向かう。もちろん水蒸気の威力が盾にぶつかるせいで魔法詠唱もバレていない。オマケに相手の魔法のせいで空間内が蒸発の煙で視界も悪い。好都合だった。

千輪咲いていたであろう花もいつの間にか百枚を切っており、単純計算しても1分ももたない。

「終わりだ!」

勢いを強めようとした時、彼女らの地面で待機していた氷獣が一斉にジャンプする。

五匹の氷獣は魔法陣の点の役割を果たし、それを魔力で線にすることで魔法は発動する。

「氷魔法、絶対零度」

空間が凍りついた。魔法陣前方を全て絶対零度領域にする魔法、-273度の中では何者も個体になる。

空間が個体と化し、確実な勝ちを見極めた時にしか使わないスクルトの奥の手だ。

「これで、何とかなったかな」

戦いの勝利を自分に祝福した時、聞こえるはずのない声が聞こえてくる。

「誰が負けたの?」

妹の方の声だった。それは固体となった絶対零度領域から。

「私達の魔法が熱魔法だってしっててそれをしたならそれは凄い勇気だよ」

「そうだな。本当に哀れだ」

一瞬にして気体へと昇華したその光景を目にスクルトは絶句するしかない。

「だから、お返し」

杖をスクルトに向けてされてきたように魔法を唱える。

「熱魔法、絶対零度」

その瞬間スクルトの耳を掠って背後から何かが飛んできた。それはちょうど妹の杖を突き刺し、持ち主の手から引き離した。

もちろん魔法は発動せず、杖は飛び道具と共に壁に刺さる。

「私もいることを忘れないでね。熱魔法、絶対零度」

「させるわけないでしょ」

ヒナはクナイのように持っていた短剣を投げる。今度は彼女の顔面に目掛けて飛んでいき、咄嗟に彼女は魔法を防御に回す。

結果的に二発ともヒナによって魔法を喰らうことはなく、あんなに大きな魔法をそうすぐには発動も出来ないだろう。

「立てますか、スクルトさん」

いつの間にか地面にへたり込んでいたスクルトに手を差し伸べる。

「こういうのは男が女にしないといけないだけどな」

そんな嘆きを吐き出しつつも、手を取って立ち上がる。

と言っても状況は未だ劣勢。相手を倒すには一手足りない。ヒナは弾かれた短剣を拾う。

「俺はお姉さんの方を相手する。ヒナちゃんは妹さんの方をお願いできるかな」

「うん。絶対、負けないでよ」

「もちろん」

ヒナは杖を取ろうとする妹の方へ走り出す。妹を援護しようと魔法を姉は詠唱する。

「熱魔法、氷柱」

「氷魔法、氷柱」

後を追うように発動したスクルトの魔法だが、構築速度の差でヒナに攻撃が当たることは無い。

「貴方の相手はこっちですよ、お姉さん」

「っ!邪魔」

敵に言うのはなんか違うが、美しい顔が怒りの表情で歪む。憤慨を示す彼女はまた詠唱を始める。

「召喚魔法、うさぎ追いし彼の者」

魔法陣が床にでき、そこから兎が出てくる。それは狙いを定めたかのように迷うことなくスクルトの方へ走る。

「氷魔法、氷檻」

すかさず氷の檻を作り、兎を閉じ込める。それでも止まることなく兎は出続け、檻がいっぱいになる時、

「熱魔法、融解」

器用に檻だけを溶かして弾けるように兎が出てくる。スクルトも氷柱で対抗するが、力は五分五分。このまま行けば魔力の差になるが、ほぼ無傷の敵と自分とではどちらが先に落ちるかは目に見えている。

ヒナの方を見ると、妹を圧倒して戦っている。魔法が無いのに渡り合っているのが驚きだ。

仕方ない、こっちも一発賭けようかな。

そう思った時だった。

「鎖魔法、バインド」

不意打ちの攻撃に姉は為す術なく身体が拘束された。足と手が繋がれた彼女はその場で丸まった状態になる。

「だれ!」

姉のその声を無視してその人物、アイラはスクルトの元へ駆け寄る。

「治癒魔法、治癒の泉」

泉が床に現れて、その水に触れると自然と体が心地よくなる。

「大丈夫ですか?」

「ああ、これで二度目だ。面目ない」

「?」

「いや、こっちの話」

傷と体力が回復し、だいぶ体が楽になる。

「無視しないでくれませんか!」

杖を振ると大量に湧いた兎がアイラに向かって氷の吐息を吐いた。

だが、アイラに直撃したその攻撃は全くと言っていいほど彼女にその効果を示さない。

「私にはもうその魔法は効きません。さっき受けたので」

「どういうことだ?」

スクルトの問にアイラは後で教えますとだけ言って戦う体制になる。次の瞬間アイラが隣から消えた。

「アイラ!」

歓喜の叫び声が聞こえたのはその後だった。後ろを見ると、ヒナに抱かれて倒れ込む姿。

相手をしていた妹の方もポカンとしている。

「ん、ヒナ。さっきぶり」

「良かった〜。待ってたんだから」

パンパンと裾に付いた汚れを払って二人は立ち上がる。

「これで3対2です。大人しく降参して下さい」

アイラが自信満々に宣言する。

「それで降参する人なんかいないでしょ」

姉は辛辣な態度でその呼び掛けを叩き切る。どうやら交渉は決裂だ。

「じゃあ仕方ありません。私の魔法で二人とも戦えなくしてあげます」

「やれるもんならやってみなやって見せてよ」

姉の挑発的な態度にアイラは簡単に乗っかってしまった。

「いいでしょう!そんなに言うならやりますよ!」

「アイラちゃん、これは挑発だよ」

「知りません、私は怒りました。ギタギタにします。二人は手を出さないで」

ヒナのスクルトは困ってその場に立ち尽くす。彼女に任せるべきか手伝うべきか悩んだ末、負傷者は足でまといになると思い、控えに着く。

それでもいざとなったら前線に行くつもりだ。

「じゃあ僕達はサポートに回るから、思う存分戦っていいよ」

アイラは一歩前に出る。彼女が杖を振るうと同時に戦いは始まる。先行したのは相手の姉妹の方だ。

「熱魔法、氷床」

「熱魔法、炎氷」

姉が床を踏むと、一瞬で空間の床が凍った。そこに燃える氷がアイラに向かって飛ぶ。アイラも負けてはいない。

「効果付与、魔法効率低下、身体能力減少、魔法効果低下、視界不良、鈍化、聴力減少、魔法構築遅延」

デバフの大盤振る舞いだった。自傷覚悟のその魔法で相手の身体、魔法能力を極限まで引き下げる魔法。

アイラのいつもかける魔法とは違い、黒いような灰色のようなオーラが彼女らに漂う。

「ヒナ、アイラを守るよ。氷魔法、氷柱」

「わかってます!」

スクルトの魔法とヒナの剣術で炎氷は防ぎ切る。

さらにアイラはゆかりなく魔法を注ぎ込む。

「鎖魔法、四肢融融」

姉妹は互いの四肢が絡まるように鎖で引き付けられ、繋がれる。姉の右足が妹の左手、右手が左足というような具合だ。

その攻撃にデバフを散々受けた彼女らでは到底対応できるはずもなく、その場に団子状になって転がる。

「ね、私の勝ち」

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