魔法図書館
「なるほど、それはまた大変な」
私に同情するように彼は真摯に私の話を聞いてくれた。私もそういう彼の対応がなんだかとても落ち着いた。一通り状況を説明すると、彼は一呼吸置いて言った。
「それで?」
急に空気が冷たくなった。さっきまでの花畑のような暖かい雰囲気はいつの間にか風雪が吹いた雪山のような冷たさを肌から感じる。
「えっ、それでって。助けて貰えないんですか?」
「私もそうしたいのはやまやまなんだ。だがしかしね、先日緊急の収集がかかってね。そこで彼女、リルの処置が再び見直されたんだ」
そこから先、彼が何を言いたいのかは口に出さなくとも分かった。
「師匠はまた禁忌を犯した者、つまり異端に処せられたということですか」
「そういうことになるかな」
この時のアイラは自信でもおかしなほどに激情で髪が逆立ちそうなほどだった。目の前のこの男は何を言っているのかと。ルールを前に仲間を見捨てるのかと。そう、心に留めて奥には大きな憎しみが目に宿る。
「そんなにかっかしないでよ。これは私の決定じゃない、魔法界全体の決定だよ。それこそなにか条件付きじゃない限り長としては動くことが出来ない」
沈黙が流れた。時計がチクタクと音を立てる。深く深く深呼吸をして心を落ち着かせる。
「わかりました。じゃあ私からは一枚のカードを提示します。それで気が変わったら協力してくれますか?」
「そりゃあもちろん。任せてくれ」
アイラは自身のショルダーバッグに手を入れる。中には二冊の本。そのうちのボロボロになったいかにも古書と呼べる代物を取り出す。
「これがなにか、あなたならわかると思います」
ルークスのおもむろに茶菓子へと伸ばしていた手が一瞬で止まる。息を飲んで恐る恐る彼は私に尋ねる。
「まさかこれは、魔導書なのか?」
「そうです。百冊のうちの一冊。これは師匠が私に託した切り札です」
「そうか。………分かった、協力しよう。君はこの魔導書を、私は最高の部下を二人君と共にさせよう」
契約は成立した。これで、私は師匠を助けに行くことが出来る。
契約が果たされ、二人はルークスの屋敷を出てある場所に向かっていた。
「ここは?」
「この建物は、あらゆる魔術の書が保管されている魔法図書館。魔法に関する本なら全てここにある」
中は外の外観よりもとても大きな空間が広がっていた。目に見えるだけでも数万という本が棚に並んでおり、今も忙しなく本が空中を移動していた。
「ここは、私たちライブラが管理下に置いていいるから固有魔法の飛行魔法を込めたシステムを作り上げて、自動で全ての本を探したり戻したりできるようになっているんだ」
歩きながら彼は自慢げに語る。通りががかる職員は彼を見ると丁寧にお辞儀をする。そんな彼の話を聞いているうちに二人は図書館の最奥部、まるで鉄のような何かで覆われた扉が一つだけある空間に着く。
「じゃあ行こうか」
彼がドアノブに魔力を込めると、
「生体認証、ルークス。十二宮のメンバーと確認。ロックを解除します」
流れた魔力が扉に刻まれた溝に流れて光を放つ。溝全てに魔力が満ちると機械音のような音が聞こえて扉が開いた。中は意外と小さく、大きく横に長い本棚が1つあるだけだ。
「アイラくん、この魔法は何番目の魔法かな?」
「九十七番目です」
彼はそれを聞いて歩く。
「ここか」
魔導書の表紙を開いて、その字を見ると再び閉じる。97と書かれた引き出しの前に立って彼は詠唱を始めた。
「真偽を確かめよ。法の九十七、百鬼夜行」
しかし、リルのようなことにはならず、何も起きない。しばらくして彼が目を覚ますと、私を見てこう言った。
「どうやら本当に魔導書のようだな」
その引き出しに本をしまう。するとゆっくりと壁と同化して引き出しは消えていく。
「どういうことですか?」
「これは魔法界を変えたある一人の魔法使いの作った本棚。通称魔の標。今から1000年前に生まれた、天に愛された魔女メイレイが作り上げた遺構の一つだよ」
「その魔女っていうのはどういう人なんですか」
「君はまだ知らなくていい。リルを助けたいんだろ?それなら早く行った方がいい。いずれ君も知ることになるからね、この世界の真理を」
「?」
その疑問を抱えたまま彼女は向かう。師匠を助けるために。二人の執行人を連れてプレートに再びアイラは戻った。
「さすがにもう居ないかな?」
二人の執行人と共に辺りを探し回る。道を歩いていると、どこかで聞いたことのある声がする。急いで走っていくと、そこにはあの元気な少女がいた。
「ヒナ!」
「おっ、てことは。また向かうんだね」
「うん!」
再開した喜びとともに二人の執行人も微笑ましくその光景を見る。
「私はパレルナ。祓魔師です。短いけどよろしくね」
「僕はスクルト。彼女と同じ祓魔師です。よろしく」
短い四人での旅が始まる。




