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追憶
そこに選択は確かにあった。
でも僕には選べなかった。ただそれだけ。
流れた血を止めることも、ましてや閉じてしまった目を開かせる事など僕には出来ない。
「さよなら、師匠」
伸ばした手は彼に届かない。魔法陣は光を放って、ただ僕だけを照らしている。
「お願いだ。どうか戻って!」
杖を強く強く握りしめる。それだけが彼女の最後の希望であり、自分の存在価値であった。
マントは血で赤黒く染まり、両手は風が吹いて冷たく感じる。背中に背負った杖を思いっきり地面に叩きつけた。木が砕け散り原型は留めていない。
「もう、いいや」
この日、僕は自分の人生に終止符を打った。