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悪魔祓いの旅路録  作者: 日朝 柳
悪魔の王様
3/110

お断り

「あぁ。あんなに沢山のご飯を食べたのは久しぶりだな。あのおばさんにまたあったらお礼しないとな」

お母さんのご飯はどれも食堂で食べたもののように美味しく、腹が減っていたこともあってたくさん食べてしまった。

そんなことを言いながら満足気に森の中を歩く。あまり人と接触したくないので獣道を利用してその町へと向かっている。だが、後ろから誰かのドタドタとした足音が聞こえてくる。

最初は獣が通っているんだろうなと無視していたが、どうもそうでは無いらしい。一定の距離を歩くとその足音はこちらに向かって近づいている。そんなことを獣が考えられるはずもない。

進む足を止めゆっくりと 後ろを振り返ると、木に隠れきれていない小さなマントと頭がはみ出している。バレているのに気がついていないようだ。

「もうちょっとだけ気付かないふりをしておこう」そう思って何事もなかったかのように再び歩き出す。

後ろの足音は十歩歩く事に近づいてくる。時々転んだり大きな音が立ったりするが、無視する。よっぽどどんくさいやつなんだろう。

ドタンっ!

綺麗に大きく転んだ音が聞こえ、流石に痺れをきらして後ろを振り返る。するとちょうど後ろの何かと目が合ってしまった。

マントに見え隠れしている瞳が青く翡翠のように輝く。なんだか嫌な気配がしてその場を走りさろうとする。

「ま、待ってください!」

僕のコートを強く握り締め、歩みを止める。振り返るとマントを頭からとった少女がそこに立っていた。

「だれ?」

薄灰色の髪に白い肌、瞳の色が少女の容姿を大きく目立たせている。だが見たことも無い少女を前に、かける言葉はこれしか思いつかなかった。

少女は少し逡巡した後、意を決してこちらに目を向けて口を開いた。

「リルさん、ですよね?」

「そうだけど。なんで僕の名前を?」

すると尋ねてきたのは彼女のほうなのにあたふたと慌て始めた。深呼吸を促して一旦落ち着かせると、またその翡翠の目をこちらに向けてくる。

「私、あなたの弟子になりたいんです!」

精一杯の彼女の声はちゃんと僕の耳元に届く。だが、僕はそれを聞いて少しだけ心が痛む。

「それは、無理な話だ」

こういう時ははぐらかすのではなく、キッパリと断った方が彼女のためだ。何より僕なんかよりも魔法を教えるのなら向いてる人は大勢いる。こんな出来損ないの、厄災みたいな僕には弟子なんて似合わない。そう考えてしまうほどに失ったものが多すぎた。

「どうして、ですか?」

彼女の不安げな声はさらに僕の心を締め付ける。そんな顔をして僕を見ないでくれ。余計に苦しくなるじゃないか。

「だいたい、君は誰だ。僕は名前も知らないようなやつを弟子にする気はそうそうない」

「私は、、、アイラ。そう呼んでください」

「そうか、アイラっていうだ。いい名前だね。それじゃあまたどこかで会ったら」



ズザザザザザ。

「重い、離してくれ」

丁重にお断りしたはずの少女は足にしがみついて離れない。自分の体が砂まみれになるのも躊躇せずに必死で握っている。

「弟子にしてくれたら離します」

こうきたもんだ。もう弟子はとらないと心に決めているのに。

「いいか、僕にはもう誰かにものを教える資格はないんだ。だから他の人をあたってくれ」

すると突然、訴えるように彼女は声を張り上げた。

「それでもっ!.....私はあなたじゃなきゃダメなんです」

コートを掴むその手の力が失われていくのと同時に、自信なさげに彼女の声がだんだん小さくなっていく。

そこまでして僕に執着する理由は何なのだろうか。その少しの興味と彼女に対する憂いもあって、とりあえず事情を聞いてみることにした。

「そこまで言うなら理由があるんだろ?それを教えてくれないか」

するとさっきまで元気の無かった少女の顔に少しだけ明るさが戻っている。

「これは、私の村での出来事です。私には双子の妹がいて、いつも一緒に遊んだりしていたんです。服も、靴も、髪型もお揃いにして、とにかく仲が良かったんです」

彼女は続けて話す。

「でもある日、彼女が突然魔法を見せてきたんです。最初は驚いたんですけど、それがいいものでは無いと知ってはいてもこっそりと二人だけで遊ぶ時には魔法で遊んでました。」

「もちろんそんなことは長続きしません。二人でいる時に魔法を使っているのを親に見られたんです。すぐに妹は異端児とされて幽閉されました。」

すると彼女は顔を上げて言った。

「その時にたまたまやってきた祓魔師があなただったんです。妹に憑いた悪魔を祓ってすぐに去っていきました。その姿が私には眩しすぎて、私もあんな優しい人になりたいと思ったんです」

そんなことを言われたのは初めてだった。禁忌を侵した僕にとって優しいなんて言葉は似合わない。分かっていても、実際に言われるとやっぱり嬉しいと感じてしまう。

だけどそれとこれとは別の話で、彼女の信頼にも繋がらないし僕が弟子をとる理由にもならない。

「それはありがとう。僕もそんなことを言われてとても嬉しい。でも僕は君を弟子にする事は出来ない。これは僕のケジメなんだ。それを果たさないと僕の気持ちが収まらない」

それでも彼女は一歩も引いてこようとはしない。

「いいえ、私はそばにいるだけでいいんです。お願い出来ますか?」

何がそんなにここまで意固地にするのかが僕には理解が出来なかった。僕にあるのは一つの禁忌と、どうしようもないろくでなしだけだ。

踵を返して僕は再び歩き出そうとする。このまま引き伸ばしてもどうせ彼女は引いてくれない。なら、無視をすればいい。

「じゃあ、私にも手伝わせてください」

「君に何が出来る」

思わず僕は振り返った。彼女の言葉に希望を見出したのか、呆れて怒りを感じたのかは分からない。

「私は、普通の魔法は使えないです。けど貴方の隣に、いや後ろから支えることは出来ます。一人じゃいつかは倒れちゃいます。私を支えにまた立ち上がってくれませんか」

まるで僕の足跡を辿ってきたかのような言い草だ。そんなことは僕以外ありえない筈なのに。だけど、そんな彼女の言葉がストンと心に落ちてきた。

「僕は君を弟子にする気は無いよ」

「必ず弟子になってみせます」

「言っておくけど、いい暮らしは出来ない」

「大丈夫です。こう見えて、森育ちなので!」

もう半ば諦めで、言葉も出てこない。自然と苦笑いをしてしまうくらいに。

「分かった。着いてきたかったら勝手に着いてきていいよ。今の僕はただの流浪だからさ」

「やった!ありがとうございます、師匠!」

だから師匠じゃないってば。そう言い返す頃にはもう大はしゃぎしてこっちの言葉なんて全然聞いてさえいなかった。


突然すぎる彼女は一体なんなんだろうか。そんなことを考えた時もあった。だけど、今となってはもう関係の無いことになった。

どうか次は、無事でいますように。精一杯にそれだけを願う。僕は大切なものを失いすぎた。これ以上、大切なものは増やしたくない。

また、見たくないものを見ませんように。だが、見てしまっても僕の悪歴に傷が増えるだけなのだから。


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