事故
ガガガガガガガガッ
突然の衝撃にリル達を含める乗船者は皆一様に体が流されていく。不安定な足元で何人もの人が船の中を入り乱れる。
外にいた二人は、何とかデッキの柵を握っていたので振り払われることはなかった。
何が起こったんだ。
外を見るとさっきまで海だったその場所には氷が張っている。周りを見ると何故か船の周りにだけ氷が生成されていた。
突然現れた氷の棚に、船は避けることも出来ず乗り上げてしまっていた。
なんだこれは。こんなの普通の祓魔師でもなかなか出来ることじゃない。ますますあの白装束が怪しく感じるな。
「アイラ、君は船にいる人々を」
ガタッ!
再び船体が傾き始める。中の人々が次々に外のデッキへと出てくる。ある人が「この船は沈むぞ!」と言って中から出てくる。
これじゃあパニックで誰も冷静な判断が出来なくなる。一人の不安は腐った蜜柑の原理のように次々と伝播していくものだ。とにかく不安を煽らないようにしないと。
「僕はこの船をどうにかする。だから君は中にいる怪我人の手当を頼んだ」
「分かりました。でも、無理はしないでくださいね」
そう言ってリルに微笑み、船の中へと走っていった。「分かったよ」僕もそう言って船を降りる。
さて、僕一人でこの船を制御できるかが問題だな。
そんなことを言っている間にも着々と船は傾き沈み続けている。一瞬の判断ミスが乗客を犠牲にするかもしれない。
コートにしまっていた杖を取り出し、船に向けて構える。
「電磁浮遊」
杖の先から電気が放出され船の周りを包んでいく。電網のようになったその電気は徐々に船体を持ち上げていく。
くっ!
意外と魔力が持っていかれる。船を氷の上まで運べるかどうか。少しずつ少しずつ引き上げていく。
すると突然、
「お困りのようだな」
そんな声が聞こえた。振り向くとそこには碧眼の美少年が宙に浮いていた。




