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悪魔祓いの旅路録  作者: 日朝 柳
悪魔の王様
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「これでもう大丈夫だよ」

少年の頭を撫でながら祓魔師は言う。

「ありがとうお兄さん!」

満面の笑みでお礼を言うと、その少年は母親の元へと走っていく。

その祓魔師はリルと言った。今となっては端くれではあるが、一応祓魔師である。

今日は少年に取り憑く悪魔を祓って欲しいという依頼でこの町へとやって来た。

「本当にすまないねえ。こんな田舎にまでわざわざやってきてくださるなんて」

少年の母はとても申し訳なさそうに礼の言葉を述べる。少年はもう無邪気に他の子供たちと楽しくワイワイと遊んでいた。

「そんなことないですよ。僕はこんなことしか出来ないんで。それに、」

リルはその少年の方を見て言った。

「僕はああいう笑顔を見れればそれだけでいいんです」

それが僕の贖罪であり願いなのだから。という思いは言葉にすることなく心にしまっておく。

やることは終わってもうここに居る用事は無い。家は無いけど、またどこかに向かおう。そう心では思っているのに体は相反して求めるものがある。空っぽのお腹はキュルキュルと苦しそうに小さな音を立てた。照れくさそうな顔をしながら渋々とその母親に声を掛ける。

「でも、その代わりと言っちゃなんなんですが…」

「なんだい、なんでもいってくれ」

ドンと来いというような顔でそのお母さんは言った。

「ご飯を恵んでくれませんかね」

するとドッと急にそのおばさんは笑い始めた。そんなに僕はおかしなことを言ったのだろうか。

お母さんは笑い涙を拭きながら言った。

「そんなのいくらでもご馳走するよ。さあさ、早くうちに来な」

彼女は子供を捕まえると、家に向かう。

「ありがとうございます!」

その言葉に感謝を述べて、僕はお母さんについて家へと向かった。乾いた心地の良い風がマントを揺らす。家の中は暖炉があるおかげでじんわりと温かい。

食べるものもなく日々を費やしていたリルにとってはそれこそ一週間ぶりとも言えるとても貴重な普通の食事だ。それを前にして胸が高鳴らないはずがない。

落ち着きなく座っているそんなリルが気にかかったのか、おばさんは世間話を始めた。

「最近、祓魔師ってのが増えてきてるけどあんたは違うのかい?」

彼女の言うことはもっともだ。魔法を使う者が生きてきた歴史は、紀元前を遡るまである由緒正しいものだ。だが、その存在はここ数百年の間まで地上の人々に知られることは無かった。

「最近は多いらしいですね。まぁ僕も祓魔師なんですけど、一応」

「一応なんてことはないよ。あんたはうちの息子に憑いてる悪魔も払ってくれたじゃない。謙遜は美徳かもしれないけどたまには自分に自信持った方がいいわよ」

「そう、ですかね?」

こうやって直に褒められるとなんだか照れくさく感じてしまう。それでも心から自信を持てるわけじゃない。僕が犯した過ちは並大抵で許されることじゃないからだ。

そんなこんなで色々な話をしていると、料理をしていた彼女が怪しい噂について話し始めた。

「なら、隣町の悪魔の王様って話を知ってるかい?」

「なんですかそれ?」

初めて聞くその言葉にリルは耳を傾ける。

「実はね、隣町で突然現れたと思ったらその町の建物を次々と壊して行ったらしいわ。しかも家のない人々をみんな地下で強制的に働かせてるなんて噂もちらほら」

こういう話は大抵悪魔が関わっていることが多いが、ここまであからさまに何かに悪意が向いているような話も珍しい。ここで噂を聞いたのもなにかの縁だろう。少しの報酬への期待と多くの人々を助けたいという決意をして、隣町へ向かうことにする。

「おばさん、お話聞かせてくれてありがとう。その噂、何かあるかもしれないから見に行ってみることにしますね」

早速その隣町に向かおうと扉まで手にかけて出ようとした時、鼻にとても美味しそうな匂いが入ってくる。

「まぁまぁ落ち着いて。とりあえずこれでも食べていきな」

そのお母さんの言葉通り、食卓には温かなクラムチャウダーや煮物や魚がその湯気を漂わせながら並んでいる。外へ向かっていた足はいつの間にか椅子へと向かい、少年の家族と昼ごはんを共にすることにした。

「昼ごはんは、大切だからね。仕方ない」

流石にお腹と背中はくっつきそうなくらい減ってる。だからそう、仕方ないのだ。

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