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悪魔祓いの旅路録  作者: 日朝 柳
花園に咲く一輪

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109/110

残響に浸る

「これで第一の試練?」

 このまま進んでいては確実にあの少女のもとにはたどり着くことはできない。倒れる少年の腰には一粒の宝石が下げられている。光を失ったそれは形を崩し、粉々になる。

 同時に彼の後ろの扉は意思を持ったように動き始め上へと続く階段が姿を現した。

「このまま進みますか?いったん休憩した方がいいんじゃ」

 アイラは僕を心配して休むことを提案するが、それは難しいと考えている。急襲に近い形での潜入でこれだけの戦力が配備されているとするなら、二度目はそれ以上の警備がいるはず。到底それを突破するほどの人数も戦力もない。

「ありがとうアイラ。でも先に進もうと思う」

 本音を言えば一度撤退したい。少なくとももう一人、ライブラから仲間を呼んでこの関所を突破したいところではあるけど残念ながら帰る方法も資格すらも僕にはなかった。

 階段を一段一段ゆっくりとあがっていく。上から時折先ほどの少年の名前が聞こえてくる。僕たちが彼を倒したことはすでに知れ渡っていて今頃探し回っている最中なのか。中に入られていると勘違いしている間に警備の薄くなったここを突破するのが正解なはず。

「アイラ、頼んだ」

「分かりました」

 ステルスの魔法を発動し、階段を駆けあがってすぐに廊下の角を曲がる。片方はすぐに行き止まりだったがもう片方は続きがある。息を殺しながら見回りに当たっている兵士の隣を歩く。時折気配を察してか顔がこちらに向くので心臓が止まりそうだった。

「ガコンッ!」

 大きな音が背後からした。同時に消されていた火が灯り、廊下に光が当たる。

 奥には下の階と同じように誰かが待ち構えている。アイラの魔法は解除しないままその部屋に入ると同時にやはり明かりが灯る。

「「三名様、ごあんなーい!」」

 目の前にいたのは二人の少女で、手を合わせながらこちらに目配せをしている。反転したかのような白と黒の服を着ている彼女らの顔はそっくりで双子ではないかと疑いたいほど。目が合うとスカートの裾を持ち上げて丁寧にお辞儀をした。

「私はハク」「僕はコク」

「どうぞ宜しくお願い致します」

 二人は背中に掛けていた鎌を持つと、こちらに突進してくる。見えているかのような攻撃に、アイラも魔法を解除して各々に回避する。

 なるほど、さっきとは違って武闘派。他の兵士たちが入ってこないところから見て二人はかなり広範囲に攻撃をするタイプか。大まかな分析をすると、僕は自分の近くの重力を建物が壊れない程度にかける。

「僕は、二人をサポートする。だから安心して戦って!」

「分かりました!」「はい!」

 アイラは自身とヒナに効果付与を施すと白いハクと称した方へ、ヒナはコクと称した方へ距離を詰めた。彼女らは壁を蹴って二人よりも先に攻撃をしようとする。

「連鎖魔法、ノーゲート」

 鎌での攻撃に素手では勝てない。鎖の壁を生成するとまんまと彼女はそこに突っ込む。だが、彼女の攻撃はそれでは止められなかった。鎌で鎖を断ち切ると、その勢いのまま鎌をアイラに振り下ろす。

「雷魔法、ブレイクアウト」

 地面を伝った雷はそのままハクに直撃するのをこの目で見る。しかし、攻撃を受けたのは彼女ではなく僕だった。攻撃を受けた体はしびれと痛みで膝をつかざるを得なくなり、行使していた重力の魔法も解ける。

「「引っかかったね!」」

 楽しそうに僕が術中にはまった様を笑う二人。正直生真面目な僕とは相性がすこぶる悪い気がするけど、四の五の言ってられない。すかさず重力魔法で彼女の動きを拘束しようとする。

「「やっぱりバカだな!」」

 まただ。重力魔法にかかっていたのは自分自身で、体が地面に押し当てられている。すぐに魔法を解いてハクを睨む。

「師匠で遊ばないでください!」

 アイラの背後からの一撃。また僕みたいに交わされるのではないかと思ったけど、彼女はそのまま頭を殴られて壁に吹き飛ばされる。

「ったいなぁ」

「じゃあ遠慮なく」

 ハクの負傷を心配しているコクの背後から容赦なく短剣を振りかざす。直前にハクの叫びでなんとか鎌で受けることができたが、優勢だった状況は再び均衡に戻る。彼女らの魔法が何かは分からないけれど、隙が無いわけではないということだけは分かった。

「「種が割れても勝てないから安心してよ」」

今度は二人同時に僕に向かってくる。弱点があるにせよ、実体のない魔法ならアイラの魔法では防ぐことができない。鎖の壁がすぐに表れるが、それは鎌によってあっさりと刈り取られる。僕はヒナに声を掛ける。

「ヒナ、行くよ!」

具体的なことは言う余裕がない。だけど彼女は目が合うと頷いた。すぐに杖を構えて魔法を発動する。彼女自身の重力がかかる方向を変える。走ってくる二人よりも早く短剣を持ったヒナが背後に到達する。

「重力魔法、加重域」

僕の周りの重力を大きくする。二人の勢いが止まる一瞬の隙をついてヒナは、炎を宿した短剣を今度はしっかりとコクと呼ばれる少年の肩を裂いた。

その攻撃で一瞬体制を崩したハクを庇う形でコクが攻撃を受けたため、ハクはヒナを認識するとすぐに鎌を彼女の首に回す。

「ヒナ!」

「大丈夫」

ヒナのもう片方の手はホルスターにかかっていた。すぐに抜くとハクの顔面に向けて容赦なく発砲する。間一髪で交わした弾丸は髪の間を抜けていく。乱れた髪で視線が隠れた一瞬でヒナは首にかかった鎌から脱出する。

「コク、止血しないと!」

「大丈夫、それより今は戦闘の最中だよ」

彼はスカートの裾を破いて止血をするとすぐに立ち上がる。

膠着状態が何度も続いて、壁の向こうから感じる気配も増えている。こちらが人数有利とはいえ、早々に片付けないとピンチなのは間違いない。

「負けられないんだよ、こっちも」「まずはあの子にしよう」

静かに話をする二人を前に踏み出せないでいる。さっきの魔法を使われないかと思っているから。頷いた二人は急に二手に分かれ始めた。コクは僕に、ハクは、アイラに向かって。

「ヒナ、アイラのことを頼む。こっちは問題ない」

「分かった」

すぐにヒナはアイラを守りに行く。素手でいる彼女が相手をするには難しい。ヒナが拳銃で牽制しながら、アイラは効果付与の魔法でヒナをサポートする。

「で、君はなんでそんなによそ見をしているんですか」

一切こちらを見ようとしないコクに嫌気がさして魔法を使う。

「雷魔法、雷峰」

「来た!」

目の前の少年は、瞬きのうちにヒナに変わる。

「「まずは一人」」

両側から振り下ろされた鎌の先にはアイラがいる。

部屋に鮮血が舞う。雨が、静かに降っていた。

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