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悪魔祓いの旅路録  作者: 日朝 柳
花園に咲く一輪

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渦巻く螺旋

 幸いなことに、城内はあまり複雑な構造になっていない。あくまで中から外に対しての防衛能力が高いという感じで中に入ってしまってしまえば勝ちと言ってもいい。

 とは言っても上の階からはせわしなく立つ足音がしているので、簡単に彼女のもとにまでたどり着けるということではない。が、親切なのか入ってすぐの階には人がいなかった。

「とりあえず慎重に階段のところまで行こう」

「まぁ、待ってよ」

 突然、声がした。当然姿は見えない。僕たちは解けかけていた警戒を一瞬にして最大まで引き上げる。少しづつ後ずさりして声の方へ意識を傾ける。

「いやいや、ビビりすぎだって」

 その声の主は何もない場所からゆっくりとその姿を現した。アイラの透過魔法とも違う。まるで磁石に触れてしまった方位磁針のように違う場所にいたと誤認させるような、そんな感じがする。

「あなたは」

「僕?僕はアナレイト。簡単に言ったら第一の試練って感じかな。僕を倒せば上に行けるってやつだよ」

 第一印象も今の印象も変わらない。彼にはつかみどころがない。敵だと分かっているのに街ですれ違う人のような、無意識の外側に意識を持っていかれてる感じ。

「どういう理屈か分からないけど、僕たちは上にいる人に用がある。君を倒して上にいく」

「まぁそれはできたらということで」

 彼は指を鳴らす。すると兵士がどこからともなく現れた。

「不気味ですね」

「二人とも気を付けて、まだ隠れているかもしれない」

 兵士は槍を以ってこちらに突進してくる。数は10対3。相手は魔法を使ってこないと踏んでも不利なのには変わりない。

「連鎖魔法、ノーゲート」

 物理的に相手の進路を塞いで時間を稼ぐ。

「効果付与、身体能力上昇」

「風魔法、風刃」

 アイラのエンチャントがヒナに付与され、それと同時に彼女は兵士のところへ走り出す。タイミングを見計らったかのように鎖は消えてなくなり、ヒナの放った風の刃は見事命中した。

「あーあー。ダメだなぁ。しょうがない、光魔法デュアルシンクロン」

 倒れた兵士が立ち上がる。だが、不思議なことに瞬きをするたびにその数が増えている。

「幻影を作り出す魔法」

 さっきアイラはすでにノーゲートを使った。連発して使える魔法ではないので、この幻影と本物はどうにかして見分けなければならない。

「さ、君たち存分に」

 再び槍を持った兵士がこちらに迫る。

「重力魔法、加重荷」

 敵の半数に僕の魔法を浴びせる。加えられた重力によって彼らは立ち上がれなくなり地に伏す。

 残りの半数もヒナの魔法によって僕たちに攻撃することは叶わない。たとえ本物が分からないとしても、その本体の能力がこちらに上回っていなかったら意味がないのだ。

「まだやりますか?」

 あれだけ余裕そうな雰囲気で出てきたにしては拍子外れな気がする。

 もう相手は彼一人しかいない。それでも彼は表情を崩さない。

「そんなに余裕でいいんですか?」

 彼は僕たちの後ろを指す。まさか。

「効果付与、被攻撃耐性」

 とっさにアイラが魔法を使うが、それもその場しのぎでしかない。隠れていた複数の兵士の攻撃は確実に急所を狙っており、実際に命中する。

「くっ!」

 絶命することはなかったが、致命傷の深手を負う。彼らの狙いはなぜか僕に集中的で、二人はなんを逃れていた。ただし、僕の援護に回れる様子ではない。前後からの突き刺さった槍は僕の体を押さえつけて離さない。

「時間魔法、過去渡り」

 詠唱はした。なのに魔法が発動しない。

「どうして」

 原因はリルが魔力を練られていなかったから。急所を突かれた場所からの大量の出血によって彼女自身体に力が入っていなかった。それでも出血は止まらずに彼女はだんだんと抵抗する力すら失っていく。それでもあきらめるわけにはいかなかった。一か八かにかけてリルはポケットに手を伸ばした。

「あった」

 魔石を手に握る。もう一度彼女は魔法を唱える。

「時間魔法、過去渡り」

 僕に槍を突き立てた二人を一時間前の状態にまで引き戻す。それによって二人はここではないどこかへ消える。つまりは一時間前に彼らはここにいなかったんだ。

「やっぱり禁忌は凄いなぁ」

 感心する声が聞こえてくるが、そんなものはすぐに耳から零れ落ちる。

 早く止血をしないと。手で押さえてもその地は止まらない。マントを脱いで必死に当てる。

「治癒魔法、干天の慈雨」

 アイラが僕に駆け寄ってくる。敵が前にいるのにそんなに無防備にするんじゃないと、口は動くのに声が出ない。やっぱり血が足りないか。

 死を悟るのはもう何度目かになる。だけど、それでも怖くないわけではない。だから最後まであきらめることはしたくなかった。

 そしてリルは自分の足元にある血の海を見て思いつく。これならいけるのではないかと。

 指で魔法陣を書いていく。もちろん、それを相手は感心してみているだけではなかった。

「そろそろ終盤ですかね。食魔法、餓鬼」

「あなたもその魔法を。一緒に師匠を守りましょう、ヒナ」

「分かっています」

 僕は魔法陣を完成させた。あとは魔力を流し込むだけ。

 だけど、僕の体内にはもう魔力はほとんどない。魔石も一つ消費している。

「これを使うしかないか」

 いざという時にとっておいた三つの魔石。ここまでの大きさの魔石はそうそうないため、よっぽどのことがない限り使うつもりはなかった。

「それが今っていうことか」

 僕はそれを魔法陣の中央に置く。そして、心の中で魔法を唱えた。

「時間魔法、過去憑き」


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