離れない感覚
起きたとき、天井があってそこに知っている顔がある。
すやすやと音を立てる寝息に目を向けて、それがアイラだと分かる。
起き上がって自分が服を着ていることを自覚し、窓を開けて朝の冷たい空気を浴びる。
「おはようございます、師匠」
カーテンを開けたために、彼女は起きてしまったみたいだった。
「ごめん、まだ寝ていただろうに」
「かまいませんよ。また師匠の元気な姿が見られるだけでも」
その言葉に、僕は返事ができなかった。
「師匠!」
アイラの呼びかけにさえも無視して宿を出る。ヒナは寝ているのか姿が見当たらなかった。
「待ってください」
僕の服を握って離そうとしない。そのまま歩き出す。
「僕は彼女を祓わないと。だから行かせて」
それでも彼女は離さない。
「師匠、一つだけ聞いてもいいですか」
「急にどうしたの」
僕は足を止めて彼女に向き合う。
「私は師匠がいざという時の為に保険をかけていたんです」
「保険?」
「そうです。師匠のその魔法が使えなくならないように」
そう言って彼女はマントの中から一つの魔石を取り出した。何故かその魔石は光を放ち続けている。
「まさか」
「師匠はもう分かったんですね。そのまさかです。最初にこんなことを始めたのはうさぎ座のことがあったからなんです」
僕にその魔石を握らせる。それでも光が消えることは無い。
「師匠を助けられない時が来るかもしれない。そう思うと、自分の存在証明が無くなるような気がして怖くなったんです」
「なにもそこまで」
「でもこうして今回も私は師匠の危機を救えなかった」
「.........師匠は弟子を守るものだよ」
「それは私には無理です。だからその石を砕いてください、そうすれば師匠が結んでいる契約ごと剥がれるはずです」
でもこの石は、きっとアイラが何年もかけて魔力を溜め込んだ石で。
「師匠が砕かないなら私が砕きます。それで、魔法を使って見てください。それでも契約が履行されればすいません。私の力不足です、ですから」
言いかけた途中で彼女はふらふらと寄れて僕にもたれ掛かる。彼女はきっとここしばらくはこの石に魔力を注ぎ込んでいたに違いない。なら、ダンスの時は?昨日のあの魔法は?
「なんて無茶を」
「師匠の受け売りです」
笑顔で僕に抱き抱えられるアイラ。心做しか前よりも体が軽くなっている気がする。
「分かった。僕がやるよ」
石を置く。杖を持って叩きつけるようにした。
パキッ、という乾いた音がして魔石は輝きを失う。
同時に意識をむけていたアイラにも負荷がかかって、意識を失う。それで落ち着くかと思ったが彼女の息は荒くなっていった。
「おい、アイラ。大丈夫か?ねぇ、アイラ!」
揺すっても彼女の目は覚めない、それどころかさらに苦しそうな表情で師匠、師匠と声をあげ始めた。僕は急いで魔法陣を敷いた。その中心にアイラを置いて強く願う、死なないでと。
「時間魔法、時渡り」
苦悶の表情は和らいでいき、彼女の体は精力を取り戻していく。そして魔法が止んで目が開くと、元気な彼女になっていた。
「師匠、大丈夫ですか!」
なんで真っ先に僕の事を心配するんだ。まずは自分の事が第一だろうに。
「僕は大丈夫、それよりもアイラは?どこか体調が悪いとかないか」
「はい、むしろ少し気分が良いというか。制限がなくなって解放されたみたいな気分です」
大きく伸びをするとアイラは立ち上がった。
「宿に帰りましょう、彼女は鎖で縛ったままです」
「そうだね。早く祓ってあげないと」




