快楽の色
後ろを振り向いて、どうしてここにワープしたのかが分かった。そこには広がる花園の先に砂浜があり、恐らく海のそこにはアクエリアスがあるのだろう。
「そうだ、リルさん」
「ん?」
「私にも、魔女文字教えてくださいね」
「教えてなかったっけ?」
「ひどいです」
最近の話だったのにあまり覚えていない。というより見た目も性格も変わったから余計に分からなくなってるからだと思うけど。
「分かった。またライブラに帰ったらちゃんと教えるよ」
「約束ですからね」
笑顔の彼女とは裏腹に、晴れていた空が澱んでいく。
「師匠、霧が」
視界にモヤがかかって遠くの砂浜が見えなくなり、次第に見える場所が狭くなっていく。
「2人とも、あまり離れないように」
「風魔法、霧払い」
ヒナが持つ短剣を引き抜いて魔法が放たれる。侵食していた霧は晴れていき。再び晴れた空が見えるようになった。
「ありがとう、ヒナ」
「いいえ」
「むぅ」
ヒナのおかげで霧の中はぐれるということは避けることが出来た。突然どうして霧なんかが?という疑問を抱く。
「待ってください。師匠、あっちの方」
その方向をには、さっきまで花園しか無かったけど。
「あれは.........街?」
一面花だらけだった場所に現れた街。それが人為的なものだと言うのは明らかで。
「誰かがここに呼び寄せた」
というのが妥当で、だけど花しか広がらない場所というよりもよっぽど有益なものを得られそうではある。
「行きますか?」
「行くしかないね」
風が靡いて髪が舞う。あんなに短かった髪も少しづつ伸びて払わないといけない程にはなる。
「師匠の髪も、伸びましたね」
「アイラ程じゃないよ」
彼女は綺麗に纏めてはいるが、伸ばすと腰には余裕で届くほど長い。綺麗で入れるのは努力の賜物だろうか。
花園の中の街は入ってみると、そう他の街と変わったところは無い。あるとすれば、至る所に花が咲き乱れているというくらいか。
言うなら花に侵食されている。
老朽化した建物は蔦のように花が覆い、石畳の隙間からは花が咲こうと蕾を実らせる。
「街の中まで花なんてとても綺麗ですね」
2人にはそういう風に見えているが、やってることは蔦と大して変わらないのでなんとも言えない気持ちになる。
「うっ」
急に胸が痛み、歩く足を止めて壁に手を当てる。やっぱり彼から受けた制約はそんなに生温いものでは無いらしい。
「師匠、大丈夫ですか?」
「問題ないよ。でも少しだけ休みたいな、はりきりすぎただけみたいだし」
言われて二人は宿を探しに行ってしまった。やっぱり魔法が使えない問題を先決すべきか?後回しにしようともこの問題は常に付き纏い続けるわけで、魔力の蓄積が限度を超えればさらに体に支障をきたす。隣にあったベンチに腰掛けて息を落ち着かせる。
「どうされましたか?」
顔を上げると質素な服装の少女がいた。彼女の持つ籠には野菜や果物が入っている。
「なんでもありませんよ、少し疲れただけです。連れがもうすぐやって来るのでお気になさらずに」
「でも、かなり弱ってらっしゃるようでしたので。良ければ私の家に来ませんか?薬草を調合しますので、そうすれば少しは楽になるかもしれません」
そう言われてはキッパリと断るのも申し訳なくなって、彼女の家へお邪魔することにする。自分は思っていた以上に押しに弱いんだな。
そういえば2人に何も言ってなかったなと思って一旦戻ろうとした時、家の扉が閉まった。
「あの、連れに言っておかないとと思って。一度さっきの場所まで戻ってもいいですか?」
「それなら.........大丈夫です」
「えっ?」
鍵をかける音がする。僕の前に彼女は立ち塞がって、大胆にも僕の体を抱きしめる。酔いしれるような匂いが鼻腔をくすぐって、同性だと言うのになぜだか変な感覚に襲われる。
その行動の意図が分からず、されるがままに導かれ押し倒されてしまう。ふかふかのベッドに僕の体は沈み込み、触れ合う体の面積がより大きくなって思わず顔を逸らす。
「恥ずかしいんですか?可愛いですね」
さっきまでの彼女とはどう考えても違う。舐めるような視線が、捕食者の如く這いずってここにいてはいけないと本能が警鐘を鳴らす。
杖に伸びた手を握られて、声を出させないように口が塞がった。どうしてこんなことになっているのか理解ができず、僕の口の中に侵入してくるものが脳を溶かすように絡めてくる。
息が続かずに口が離れると、彼女は頬を朱に染めて愛おしいものを見るかのような目で僕を見る。
体が熱くなってむず痒くなる。
蕩けた口元が彼女を求めているような気にさえなる。伸ばしていた手は彼女の頬へと向かい、それに準ずるように彼女も目を閉じる。
カプリコーンは快楽と欲望の象徴。
神話の影響を色濃く残した珍しい大陸の一つがこのやぎ座。欲求には抗えない。それは本能であり人は誰しも快楽を求める。それがどんな形であれ。
彼女の耳飾りの白い花、それがチューベローズだと気づいたのは後の話。
「あなた、どうしてそんなに男らしくいようとするの?」
彼女のシンプルな問いかけに、蜜に溺れた僕の頭は動かない。
「それはっ」
きっと正常であっても答えられたかは分からない。弱さを隠すためか強さで守っていたかったのか。どっちにせよ僕は弱い生き物だ。可憐とは程遠い。
「でも構わない。私はあなたを受け入れる」
そうして感じ取った気配に、僕は恥を知った。
なんだ、この子は悪魔に憑かれていたんだ。それにも気づかず僕はされるがままだったのか。
「動け」
今更になって魔法陣を描こうと指を動かそうとするが、力が入らない。入れようとするほどに力の入れ方が分からなくなって全身が浸るように気持ちがいい。
「ダメっ。あなたは私と一緒にいるんだから」
「.........どうして貴方は僕を選んだんですか」
お腹から下へと向かう手が止まった。その逡巡はなんだったのか分からない。だけどすぐにその手は動き出す。
「そんなもの、一つになればきっと分かりますよ」
既に敏感になっている体に彼女の指がつーーーっと指で伝う。それだけで酷く反応してしまい、逃げようと抗うのに彼女は全て抑えてしまう。どう考えても彼女の体格から出る力では無い。
僕はどうすればいいんだ。この場でできることなんて何もない。何度も逃げ出そうとするために両手は布で縛り付けられて動かないように僕の足にまたがる。
「もう、逃げないでね」
耳元にフッと息を吹きかけるだけで体が震え、今まで自制していたものが解けたように手加減をしなくなった。
脱いでいた服は綺麗に剥ぎ取られ、生まれたままの姿になった僕は気づかないうちに汗だくになっていたということを知り、次第に息も絶え絶えになる。
「待って」
「待ちません」
触られるたびに体が歓びをあげる。彼女の汗と自分の汗が混じり合っているのに不快にならない。
早く、来て。
僕の叫びと彼女の誘いが重なる。
ドンドン。
彼女の動いた指先が止まる。それだけで安堵してしまう。
「すみませーん、すみません」
アイラの声だった。来てくれたと、安心した次の瞬間再び指が動き出した。
「ちょ、ちょっと。やめて」
それでも濡れた指と体が嫌な音を放ち、その音は次第に大きくなる。
「たすk」
口を塞がれた。引き剥がせない。ガタガタとベッドを揺らして限界を迎える。
ドンッ!
扉は壊れた。外から二人が顔を覗かせた。その時みせた僕の表情はどのくらい醜かっただろう。
「師匠、、。今助けます」
彼女の鎖は僕に跨がる少女を壁にはりつけにした。
「良いところだったのに」
深く、深く情欲した顔のまま意識が薄らいでいく。嫌だ嫌だ嫌だやめてやめてやめて
僕は、なんて無力なんだ。




