働き方改革
ーーこんな仕事やってられっかぁ!
昨年、僕の同期の松本がそう叫んだところ、次の瞬間には頭と四肢をバラバラにされ、同僚のランチにされていた。
彼は一時的には仕事から解放されたのだが、魔界では業務の放棄は命の放棄と同義だ。
何せ、魔界で仕事をしていない人間は不法滞在となるのだ。そうなればただの犯罪者、天使による加護が失われる。
また、恐ろしいことに魔界には軽罰という概念はないため、基本的に犯罪者は極刑である。
出向が解かれるまでは逃げることもできず、さらに魔界で死んだ後は魂を囚われ、もっと過酷な仕事が待っている。自殺すれば楽になるなんてこともないのだ。
お盆には毎年魔界のゲートが開くため、魔界からの解放を願う人間の自殺者が増加するのだが、ゲートの厳重な守りによってたいていは魂を捕縛されて終わりである。
僕の顔色もいよいよ不死者めいてきたが、まぁ、魂を囚われるよりはマシだろうと思う。
最近、働き方改革という名目で、世界の終末には人間界に帰ることが許される『プレミアムデー』という素敵な制度が取り入れられた。
話を聞いたときには馬鹿らしくて失笑してしまったが、地獄に魂を囚われた無期限労働者たちにとっては、唯一の救いなのだと思うと、笑えなくなった。
ちなみに我社は基本的に残業代がでないので、いくら働こうが給料は雀の涙。
たまに現物支給として謎の肉が手渡されるが、社員のミノタウロスやコカトリスを最近見ないのは何故だろう…。