邪魅の噺
『邪魅は魑魅の類なり。妖邪の悪気なるべし』
これは、かつて邪魅の姿を描いた『今昔画図続百鬼』に書いてある解説である。
邪魅とは形なく、病症の元になる気だという。
中国に邪魅に関する逸話が残っている。
◇
かつて中国に王遙という仙人がいた。
あらゆる病気の知識と治療法を知り尽くしており、彼に治せぬ病はないとまで言われていた。
ある時、邪魅に取りつかれ患っている者が王遙を訪ねてきた。
王遙は一目見るなり、原因が邪魅にあると見抜いた。
患者を一度外へと連れ出すと、王遙は地面に牢獄の絵を描いた。
そして患者についた邪魅を呼び出すと、すかさずその牢獄に邪魅を封じ込めた。すると患者の病は嘘のように完治していた。
礼を言って帰っていく元患者を見送ると、王遙の弟子が少々不安げに尋ねてきた。
「先生。この地面の檻に閉じ込めた邪魅はどうすればよいのですか?」
「どうする必要もない。そのままにしておけばよい」
「しかし、もしこの檻が壊れてしまったらどうなるのですか?」
「檻が破れられれば当然、中に閉じ込められた者は出てきてしまうだろう」
「それでは、この檻を見張らなければならないのではないのですか」
「その必要はない。檻が破られれば、それはそれでよい」
「なぜですか」
「檻が破れれば邪魅はカイホウされる。カイホウされれば病は治るだろう」
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