砂かけ婆の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
ある寺門に続く竹藪で妙な事が起こった。近隣の者が、寺へ用事を済ませるために、その竹藪を通る度、砂をかけられるのだそうな。しかも不思議なこと昼間は何事もなく、決まって黄昏から夜に変わる時分に起こっていた。
ある日の事。寺に行くために、件の竹藪をどうしても通らなければならない男がいた。この男、砂をかけられる怪事は知っていたのだが、所詮は噂話であり、どこぞの臆病者が言いふらした出任せだと見縊っていた。
寺での用事を済ませて帰るころには、夕焼けがまぶしい時間となっていた。
とぼとぼと竹藪の中の道を進んで行く。その丁度中間あたりに、誰が置いたかもわからない腰掛用の岩があるのだが、その岩に誰かが座っている事に男は気が付いた。
夕方のことなので、相手の顔がよく見えず男は用心した。
それはどうも歳を経た老婆のようであった。知らぬ顔であったが、見れば痛そうに膝を擦っていた。男は見兼ねてしまい、思わず声を掛けた。
老婆がいうには、隣の町からこの先の親類の家に行く途中らしかった。歳のせいか膝を痛めており、どうにも歩けなくなってしまったので岩に腰を掛けて休んでいたのだと言う。
そこまで聞いておいて、見捨てて帰るような薄情な男ではなかった。男はその老婆を町まで背負ってやることにした。
やがて村に着くと、老婆の膝の痛みも和らいだようで、礼を言って去って行った。
◇
男は少し良い気分になって、友達と居酒屋に入って、人助けをしたことを話題にして酒を飲んでいた。
ところが。
帰る段になって、そこでようやく自分の財布がないことに気が付いた。あれこれと思案してみたが、どうやら老婆に財布を掏られたようである。
「あのババア。人の親切に付け込んで何てことしやがる」
「馬鹿だねえ。あの竹藪を通るときは砂をかけられるから、気を付けろとみんなで言っているじゃないか」
「何を言っていやがる。財布を掏られたけど、砂はかけられてねえぞ」
「かけられてるじゃねえか、後ろ足でな」
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