塗仏の噺
塗仏という妖怪がある。
全身が黒々とした仏像の妖怪であり、熱心な信徒や坊主が前で念仏を唱えたりしていると、突然動き出しては自分の目玉をボロリと取り出して驚かせる。そんな妖怪だ。
◇
この妖怪の誕生について、こんな話がある。
東京を江戸と申した時分のお話。
ある村に荒寺があった。それが、いつの頃から捨てられているのかすら知られていない程の年月が経っていた。
さて。この荒寺に一体の仏像が残されていた。
この仏像は、かつて名のある彫り師に作られており、長い年月が経つ間にいつしか魂を持つようになっていたのである。
仏像は考えていた。この寺の荒れ放題の原因は自分にあるのではないかと。
もちろん、そんな事はないのだが、誰に話を聞いてもらうでもなく長年一人きりで思いを巡らせているうちにどんどんと考え方が卑屈になっているようだ。
ある時妙案が浮かんだ。
自分のこのみすぼらしい姿を変えさえすれば、かつてのように寺を反映させることができるのではないか、と。
確かにうち捨てられている間に、雨風に晒されてカビが生えたり、鼠に齧られたり、と悲壮な姿であった。仏像は発起すると、村にいる漆職人の夢枕に立った。黒漆を塗ってもらい、荘厳な姿に生まれ変わろうと考えたのだ。
漆職人は早速、桶に入れた漆を引っ提げて荒寺へとやって来た。そして見事な黒漆塗の仏像となった。
ここまでは良かったのだが、一つ誤算があった。
この漆職人が、いつも法外な仕事料を請求することで有名な悪徳の男であったのだ。そんな事は露ほども知らぬ仏像は、浮かれ気分で再興に向けた次の一手を思案していた。
そんな仏像に漆職人から先日行った仕事の請求が届いた。
あまりにも法外な値段に仏像は目が飛び出した。
こうして人間不信になった仏像は、人を怨み、自分の前で拝む者があると飛び出した目玉を見せて驚かせるという。
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