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雪爺の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
雪の降った深い山奥などに向かう猟師や山人たちは、時たま雪を被った山林の中に年老いた翁の姿を見ることがあった。
まさかこんな深山に老人がいる訳も無いと思い近づくと、雪に足を取られて谷底に落ちて行ってしまうという。
猟師たちはこれを『雪爺』と呼び、山の神の怒りの一つとして恐れていたという。
◇
その猟師たちが春になって再び山に入ると、かつて雪爺を見たという場所で倒れている翁を見つけた。
翁の姿は紛うことなく雪爺そのものであったが、既に息はなく骸と化していたのである。
雪爺は雪の訪れとともに生まれ、春の来訪と共に消えゆくのであった。
とはいっても雪爺の亡骸を見た猟師たちは戸惑ってしまった。
◇
「こいつはきっと雪爺だろう」
「死んでいるのか?」
「どうやらな」
「何があったんだよ」
「多分、雪がなくなったからじゃないか」
「これじゃ雪爺じゃなくて逝き爺だな」
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