豆狸の噺
下ネタ
東京を江戸と申した時分のお話。
魯山という、とある俳諧師いた。元禄年間、日向国の高千穂という場所に赴いた時にある若者に出会った。眉目秀麗な青年であり、同じく俳諧を好んでいたということもあって二人はすぐに意気投合した。
そして魯山は、誘われるがままに青年の家に呼ばれることになった。
そこは人里離れた原の丘に建った一軒家だった。風流な佇まいに思わず心が弾む。中へ入ってみれば、質素の中に情味ある造りの八畳敷の一間があり、格子窓を覗けばこれまた雅な月が浮かんでいた。
魯山は促されるままに畳に腰をおろした。すると、頭にすっと句が浮かんだ。
「八畳を 月に目の里の すまいかな」
口ずさむと、それを聞いた青年が返してきた。
「雨のふる家の あきの造作」
調子の乗っていた魯山はすかさず三の句を読む。
「菊の名に 酒買うほどは 銭ありて」
すると青年はすぐに挙句を仕上げてしまった。
「忘れては又 捨てた世をなき」
◇
大いに愉快な気持ちになった魯山は、そこで一服煙管を吹かした。ところが、興奮していたせいか、勢い余って煙管から刻み煙草の燃え殻をうっかりと畳に落としてしまった。
その刹那。
部屋の床が一斉に捲りあがり、魯山は外へと放り出された。慌てて体を起こすして周りを見たが、今までいた家は跡形もなくなっており青年も消え失せていた。
◇
夢か現か定かではないまま、魯山は虚ろな足取りで里へたどり着くと、自分の身に起こった事を聞かせた。すると里の者は笑いながら答えたのだった。
「それは『豆狸』に化かされたのだろう。アンタの座っていた八畳座敷は奴の金玉だ」
何とも奇妙な話であるが、やはり世にも珍しい話であったので狸にも歌仙がいるのかと今更ながら愉快になったという。
◇
「しかしながらフグリの上に座っていたとは・・・思えば確かにコウガンの美青年であったな」
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、レビュー、ブックマークなどして頂けると嬉しいです!




