提灯小僧の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
仙台の城下町に奇妙な噂がたった。
夜道を一人で歩いていると、ふと行く先に提灯の灯りがあることに気が付く。それはどうやらどこかの小僧のようである。小僧の足は遅いので難なく抜き去ることができるのだが、しばらくすると再び駆け足で追い抜かれる。すると小僧は立ち止まり、こちらが近づくまでじっと待っている。それを追い抜くと、またしても後から駆け足で先に行っては立ち止まる。
そんな事を繰り返していると、いつの間にか小僧が消え、知らず知らずのうちに人気のない森や竹藪の近くまで来ているのだと言う。
小僧の顔を知るものはおらず、行き遭った者は一様に鬼灯のように赤く大きな頭をしていたと語る。
これはいつしか『提灯小僧』と呼ばれるようになり、噂によるとかつて誰かが殺されたりした場所に決まって現れるのだそうな。
◇
ある日、仙台の町に住む大太郎という男が夜道を歩いている時に件の提灯小僧に出会った。
提灯小僧が誘うままに足を進めていると、ちょっとした森の傍でやはり姿が見えなくなった。
何か秘密があるのではないかと大太郎は辺りを探してみることにした。
すると・・・。
大太郎は肝をつぶさんばかりに驚き、大声を上げた。
森の影には心中を計った男女の亡骸があったのだ。
大太郎は一目散に長屋に戻ると、すぐに大家に自分の見聞きしたことの一切合切を言って聞かせた。
「それは、えらいものを見たな」
「えらいもえらくないもありませんよ」
「提灯小僧はひょっとしたら、それをお前さんに見つけてもらいたかったのかも知れんな」
「そんな迷惑な話がありますか?」
「これから目明しに伝えに行くが、お前さんの見つけた亡骸ってのは、身投げか。それとも飛び降りか?」
「いえ、提灯小僧が案内したところですからね、吊りで死んでいました」
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