送り拍子木の噺
火の用心→『牛ほめ』。という発想になったんですが、送り拍子木あんまり関係ないですね、これ。
東京を江戸と申した時分のお話。
本所の割下水付近を夜に歩いていると、「チョンチョン」と拍子木を叩くような音が聞こえてくる。火の用心の夜回りかと思いきや、それにしては人の気配も声もない。それでも「チョンチョン」という音は相変わらず鳴りやまない。
つい背中にぞくりとしたものを感じてその場を後にするが、拍子木の音はまるで自分を追いかけてくるかのようにどこまでもついてくるのだそうな。
これを江戸の人々は「送り拍子木」と言って、恐れていた。
◇
送り拍子木に一番困ったのは町内の夜回り組のであった。皆が怖がって夜回りに出ようとしないのだが、火事の多い江戸の事、いつまでも夜回りに出ない訳にもいかない。
すると、組の一人が言った。
「火の用心に関わるこった。秋葉様にお参りすればどうにかなるんじゃねえか?」
秋葉様というのは、秋葉大権現の事で江戸庶民の間で深く信仰を集めていた火災、火難除けの神であった。
それを聞いた一同は、いい考えだと賛同し、すぐに秋葉神社へと足を運んだ。神主に事情を話し、夜回り組一同に祝詞を捧げてもらい、祓の儀式もしてもらえる段取りになった。
ところが。
その内の一人が朝から腹の調子を崩しており、お祓いの最中であるというのにこれでもかというくらい大きいオナラを出した。
「神聖な儀式を何と心得るか!」
流石の神主も怒り、お祓いどころではなくなってしまったのである。
男は平身低頭に謝り倒して言った。
「お許しください。次からは屁の用心もします」
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