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足洗邸の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
本所三笠町の味野岌之助という旗本の屋敷での事である。
その屋敷では毎晩のように天井裏からけたたましい音と共に剛毛に覆われた大きな足が出てくるという。そして何とも恐ろしい声で、
「足を洗え」
と、命じてくる。
それに応じて足を洗うと何事もなく消えていくが、もしもそれを断ると狂ったように怒り出し、家の中を無茶苦茶にしてしまうのだった。
この奇怪な出来事にすっかりまいってしまった味野は同僚の旗本に愚痴をこぼした。すると怪奇好きな同僚はすぐさま上意の許しを得て、屋敷を交換したのである。が、引っ越しが終わり、しばらく暮らしてみたが例の足は一切現れることはなかった。
これが本所七不思議の一つ『足洗邸』の話である。
◇
どうしても、件の足を見てみたいと思った同僚の侍は一計を案じた。
酒や煙草をのみ、少し柄の悪い連中と夜遊びまで始めたのである。ところが、先に「足を洗え」と言ったのは、妖怪ではなく妻だったそうな。
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