ひょうとくの噺
東京を江戸と申した時分のお話。
あるところに心の優しい爺様がいた。爺様は山へ芝刈りに行くと、その途中に奇妙な穴が開いている事に気がついた。
ふと、穴の事がどうにも気掛かりになりに取って来たばかりの柴をその穴に詰め始めたのだった。そうしているうちに、穴の中から不思議な声が聞こえてきた。すると爺様は穴の中に吸い込まれるように消えてしまった。
爺様はそこで見た事もない程美しい女に会った。
女は、柴のお礼と言って爺様に「火男」という醜い男の童を渡してきた。爺様は得体の知れない童を預かるのは嫌だといった。しかし、
「この火男は貴方様に必ずや富をもたらします。どうかお受け取りください」
と、強く圧してくるので、とうとう断ることができなかった。
◇
家に帰ると、意地悪な婆さんは柴の代わりに汚い童を連れてきたことをひどく責めたてた。
ところが、その火男は毎日三粒の金を臍から出すのである。しばらくたつとその辺りでは一番の長者になり、女の言った通りの富をもたらした。爺様はその頃になると、金を出す事よりも何とも言えない愛嬌のある火男のことを気に入っていた。
ある日の事。
爺様が柴を刈りに出かけた時の事。欲にかられた婆様が火男の臍を火箸で無理につついて金をほじくり出そうとした。が、あまりにも無理矢理につついたせいで火男を突き殺してしまったのだった。
帰ってきて悲しみに暮れる爺様であったが、その日の夜に死んだ火男が夢枕に立ち自分の顔を模した面を作り、それを飾れば同じく家は反映するだろうと言い残した。
これが後にいう「ひょっとこ」の面の生まれた訳である。
◇
火男の臍を突いて殺してしまった婆様は、その後臍を噛んで悔しがったという事だ。
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