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波山の噺
これだけはその内書き直す。
東京を江戸と申した時分のお話。
伊予の国の山の奥のとある竹藪には昔から鶏の妖怪が住み着いていた。この妖怪は真っ赤な鶏冠を持っており、嘴からはそれと同じく赤々とした炎を吐き出して人を惑わす。だがこの炎は陰火と言って、熱くなく決して燃え広がることはない。
普段は人前に姿を見せることはないが、夜になると人里に降りてきて羽で羽ばたくかのような奇妙な音を立てる。その時のバサバサという音から、人々はこの妖怪を『波山』と呼んだ。
◇
ある時、旅人が波山のいる竹藪の隣をそうとは知らずに通りがかった。すると、突如として現れた波山が火を吐き、旅人を驚かしたのである。
旅人は一目散に逃げ、やがて見えた茶屋に駆け込むとすぐに事情を話した。
すると茶屋の者は笑いながら言った。
「心配いらない、あの化け物が吐く炎は陰火だ」
が、旅人は焦って返事をした。
「引火なら大変じゃないか」
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