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怪談 しゃれこうべ  作者: 小山志乃
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狂骨の噺

 ああ、どうも初めまして。

 

 まさか聞きたい事があるという理由で井戸から出されるとは思ってもみませんでした。

 

 まあ断る理由もないので、どうぞ。とは言っても答えられるかどうかはわかりませんが。


 はい。確かによく分からない妖怪だとは思います・・・ええ。自分でもそう思いますよ。他の妖怪さんに比べたら有名ではないですし。特に伝承も伝わってはないですしね。逆にお聞きしたいのですが、どのくらいご存じなんですか、私のことは。


 『井戸の中の骨である』という事と『強い怨みを持っている』という事ですか。他には? 何か知っている事はありませんか?


・・・そうでしょうね。


 正直に申しますと私自身もそれ以外の事は分からないんですよ。男なのか女なのか、若いのか年寄りなのか、身投げしたのか、はたまた殺されたのか。


 え? 怨みを持っているのなら殺されたのではないか、ですか。


 ・・・分からないんです。そうかも知れません。けど怨みを残して自害する方だっているじゃありませんか。


 自分の事なのにおかしいと思われるかも知れませんが、何を怨んでいるのか本当に分からないんです。


 同じ井戸のお化けでも皿屋敷のお菊さんは、そう言った意味では羨ましいです。だってあの方は怨む相手がきちんといるではないですか。自分が井戸の中にいる理由も夜になって出てくる訳も、皆が知っているでしょう?


 私なんか誰もそんな事教えてくれないですし、考えたって答えが出てきません。


 え? そりゃあ考えますよ。井戸の中でできることなんてそれくらいですから。後は空を眺める事くらいですかね。


 どんなことを考えるか・・・ですか。


 そうですね。最近は自分の名前のことを考える時間が多いような気がします。


 ええ。『狂骨』の『骨』は分かるんです。まあ御覧の通りですからね。でも『狂』とはどういう意味でしょう。驚かすだけなら『恐骨』と書いてもいい訳ですし。


 自慢じゃありませんが、そんな狂ったような事は一度もしたことがありませんよ。そんな話は残っていませんでしょ。ああ、ただ・・・・・いえ、何でもありません。


 いいえ。自分で井戸の外に出たことはありません。今もこうやっているみたいに、どなたかに釣瓶ごと引き上げて貰わないと出られないんです。すみません、腕がお辛いでしょう。


 そうなんですよ。井戸の中は、つるつる滑ってしまって上手く登れないんです。井戸は枯れてないですからね、下には水がありますし。


 骨に水が付いたら滑りますよ、文字通りね。ははは。


 あ、すみません。実は最近になって言葉遊びに凝り出しまして。


 聞いてくれる方がいるというのは、やはりいいものですね。


 ・・・え。


 い、今なんと仰いました?


 釣瓶に吊られてしか井戸から上がってこないのは、自分の怨みの念を汲み取ってほしいから?


 ・・・。


 なるほど・・・もしも私に目が残っていたのなら、きっと鱗が落ちたことでしょうね。


 そうなのかも知れません。


 いえ、ただ何となくそうなのではないかと思ってしまった塩梅でして・・・けれど、やはりそれは違うのでしょう。


 だって話が終われば、あなたは手を離してしまうでしょう。そうすれば釣瓶もろとも、私は暗い井戸の中・・・。


 怨めしい。ああ、怨めしい。


 そんな怨めしいことを教えてくれたあなたに、お教えしますよ。さっき私が言い淀んだことです。


『狂』という文字にはね、滑稽という意味があるんです。狂言とか狂歌とか言うでしょう。


 汲み取って貰えた怨みの念を再び井戸へと落とされる・・・実に滑稽な妖怪だ。


 今、自分で言っていて気が付きましたが、滑稽には『滑』という文字がありますね。なら『稽』はどういう意味か知っていますか。


『稽』は考えるという意味があるんです。


 滑り落ちる井戸の中で延々と出自を稽古する滑稽な骨の妖怪、狂骨。


 私にぴったりの名前ではありませんか。


 ああ、怨めしい。


 さあ、さっさとその手を離してここから逃げ失せるがいい。


 そうすれば、私は再び怨みの中へと落ちていく。


 ・・・。


 ・・・馬鹿者めが。私に人を呪い殺すことなど出来はしない。


 私は狂骨。井の中の骨。怨む事しか許されていないのだから。


読んでいただきありがとうございます。


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