髪鬼の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
あるところに髪の毛が醜い女がいた。生まれつきのものであったので、方々の手段を試したのだが、どことなく汚らしいさが取れなかった。
そんな女の隣の家には、反対に髪の美しい娘が住んでいたのである。
髪の事を羨んでいた女であったが、それはやがて憎らしさへと変わっていった。女は事あるごとに娘に嫌がらせを繰り返して、とうとうそれに耐えきれなくなった娘が自ら命を絶つまで続けていたのであった。
すると。
娘が死んだ翌日から、まるでその髪の毛だけがそっくり入れ替わったかのように女の髪は美しくなったではないか。
◇
女は恐ろしさよりも嬉しさの方が先に出てしまい、見せびらかすかのように髪を結ってから町へと出て行った。出会う男たちがみな見惚れてしまうほどの美しい髪を靡かせて、女は上機嫌である。
ところが。
女の気が付かぬうちに髪の毛がどんどんと伸びて、まるで生きているかのように動き始めた。その毛は四方八方に伸びていき、街中にいた野犬たちをおびき寄せたのである。
犬たちは狂ったように髪の毛を追いかけまわし、とうとう毛の元にいた女を襲い始めた。
憐れな事に女は野犬たちによって食い殺されてしまったのである。
髪が招いた怨みを噛みで返したという話であった。
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