古籠火の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
今の東北は山形のとある藩に田村誠一郎という武士がいた。独り者の上身内は全員が死別していた上、長らくの江戸勤めだったもので、新しい屋敷ができるまでの間、古い屋敷に住むことになった。
その屋敷で初めて夕餉を食べていた時の事。
にわかに庭が明るく照り出した。何事かと思い、奉公人に様子を見に行かせたところ、庭に元からあった古い燈篭に火がついていたというのである。
誰が火を入れたのかと田村は尋ねたが、みな口を揃えて自分ではないと言った。そうすると、奉公人たちの中で一番の古株の男が言った。
「旦那様。アレは『古籠火』というものでしょうな」
「古籠火?」
聞けば古くなった燈篭が長らく火を入れてもらえないと、自ら鬼火を焚き火を灯すのだそうな。
田村はその話を聞き、何とも不憫な気持ちになった。しかしその古株の奉公人はすぐに燈篭の火を消すべきだと進言した。古籠火は陰火であり、放っておくと他の魑魅魍魎を呼び寄せるという。
それでも変わり者な田村は火を付けたままにしておくように命じた。
「器物にも矜恃はあろう。元はと言えばこの屋敷を粗略に扱っていたのが悪いのだ。古籠火が灯るのに、ヒは人間にある」
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