目々連の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
江戸の材木問屋が商売のために江戸を離れ、津軽へ向かっていた。
実に商人らしい根性の男であったので、宿に泊まるくらいなら野宿で金を浮かせるという考えの持ち主だった。そうやって数日の間、野宿で繋いできたのだが、その日に限っては丁度いい具合に誰も住んでいない空き家を見つけたので、有難く雨風を凌ぐことにした。
ところが。
誰もいないはずの空き家の中にいるというのに、やたらと視線を感じることに気が付いた。
ふと感じるがままに視線の出所を探ってみると、なんとボロボロに朽ち果てている障子の紙に無数の目が張り付いていたのである。
そこで男は、いつかどこかで聞いた『目々連』という妖怪の名と話を思い出した。
大抵の者であれば悲鳴を上げて逃げ出すだろうが、この男の肝の据わり具合と言ったら並の者ではなかった。
男は障子に張り付ていた目を臆することなく一つずつ取って袋に詰めていった。そして江戸に戻った後、取った目を一つ残らず眼医者に売って一財産を築いたという。
◇
ところが、その目を使って治療を施した患者からは漏れなく全員から苦情が届いた。なんでも昼間は頗るよく見えるのに、夜になると全くと言っていいほど目が見えなくなってしまうというのだ。
眼医者は材木商の男を呼び出して、心当たりはないかどうかを尋ねた。すると男はあっけらかんとしていった。
「あばら家の障子から取ってきた目だと言ったでしょう?」
「それがどうした?」
「取ってきた目ですから、トリメなんです」
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