大座頭の噺
大座頭の伝承を呼んでいる時から思ってましたが、これ人間ですね。
まあ「妖怪」という字の通り、あやしいものであれば皆妖怪と呼んでいいのかも知れません。
東京を江戸と申した時分のお話。
江戸のある屋敷に一人の隠居がいた。商いは跡取り夫婦に任せ、盆栽をいじったり茶を飲んだりと不自由のない隠居暮らしをしている。
仮にこの隠居を衛府蔵としておこう。
衛府蔵には現役の頃からの治井助という名の悪友が一人いた。飲む、打つ、買うの三拍子が生き甲斐の男であり、周りの者たちは早々に縁を切るように言っていた。けれども衛府蔵は、治井助は本気と遊びの線引がキチンとしていると分かっていた。現に共に爺と言われる程になる齢になっても、治井助は身を崩さずに同じく隠居生活を楽しんでいる。
ある日の事。
衛府蔵は治井助に何年ぶりかに遊びに誘われた。若い時分や働き盛りの頃であればつっぱねていたであろう誘いも、この年になり暇を持て余しているとひどく蠱惑的なものに見えたのだ。
しかし、それがまずかった。
今まで真面目一筋で生きてきた男が急に芸者遊びなど覚えたものだから、いけないと分かっていても岡惚れをして通いこんでしまう。
するとその内、家族や周りの目が痛くなってくる。そこで衛府蔵は頭を捻ってどうするかを考えた。
◇
そこで衛府蔵は変装することを思いついた。
みすぼらしい衣装に身を包み、杖を持ち座頭を装う。その上、人目につかぬようにと夜な夜なこっそりと出かけるようになっていった。
近所の者はそれで誤魔化せたかもしれないが、同じ家に住まう家族はそうはいかない。どれほど気を使ったところで部屋にいなければ小僧でも気が付く。
「御隠居様ったら今日もいないわよ? またあのみすぼらしい恰好をしているんじゃありませんか?」
腐ってもこの家は客商売。跡取り夫婦は悪い噂が立つのではないかと恐々としている。
「それにしてもわざわざ座頭に扮するとは、皮肉でやっていないのならおとっつあんも無邪気なモノだ」
旦那はため息交じりに言った。
「どういうことですか?」
「色恋は盲目ってことさ」
読んでいただきありがとうございます。
感想、レビュー、評価、ブックマークなどして頂けると嬉しいです!




