鬼一口の噺
後の世で平安と呼ばれる時代のお話。
とある男が身分違いの恋をした。
男は女の住まう屋敷へと、幾日も幾日も通い続けて自分の思いを伝えていた。
そのうちに、女の方も絆されていき二人は相思相愛となった。
しかし。
身分の差とは容易に越えられるものでなく、二人の恋は結ばれることはなった。
ある日この二人は、密かに屋敷を抜け出して駆け落ちをした。
追っ手を恐れる二人は、歩きやすい街道ではなく険しい山道に入ってそれを撒こうと考えた。
だが、追っ手の脅威を逃れた二人を今度は夜の闇と雷雨とが襲った。
幸いにも二人はあばら家を見つけ、そこに隠れることにした。
女を奥の部屋と隠し、男は万が一の事を考えて入り口に弓を持って警戒していた。
やがて、何事もなく夜は明けた。
男は奥の部屋へと女を起こしに行った。
けれども。
そこに女の姿はなかった。
いるはずの女の代わりに残されていたのは、千切られた着物の布きれと散らばった女の髪だけだった。
このあばら家には鬼が住んでいた。
夜更けに現れた鬼によって、女は一口で喰い殺されてしまっていた。
女の助けを呼ぶ声も、悲鳴も、全て雷と風と雨とに掻き消されていた。
男はしばらくの間、ただただ立ち尽くす事しかできなかった。
女を食われた男にはクイだけが残っていた。
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