鬼童の噺
新しい落ち思い付いたら書き直したいのがチラホラと。
後の世で平安と呼ばれる時代のお話。
かの頼光が大江山のかつての主、酒呑童子を退治しておよそ十年ほど経った後の事である。
その頃の頼光は、酒が元で身体を壊していた。内臓、特に肝の働きが大分弱っているので節制するようにと医者からも言われていた。
弟である頼信は方々手を尽くして薬になるものを集め、それで薬膳を作ると早速、兄を自らの家に呼び持て成すことにした。
◇
頼信の家にて歓待を受けると、薬が効いたのか頼光の体の具合も少し良くなった気がした。五臓六腑に気が満ちて、若返ったかのような錯覚を覚える程である。
すると。
頼光は頼信の家の中に、何やら不穏な気配があることに気が付いた。
それを告げると、ギクリと図星を突かれた頼信が見てもらいたいものがあると言って、どういう訳か頼光を厠へと案内した。徐に便所の戸を開く。何とそこには、小鬼が捕らえられていたのである。
小鬼は頼光を見るや否や飛び掛からん勢いで威嚇し、自らを『鬼童丸』と名乗った。
それはかつて頼光に退治された酒呑童子の子であり、親の仇である頼光の命を虎視眈々と狙っていたと白状した。そう聞いた頼光は鬼童丸を繋いでいる鎖を更に頑丈にまき直し、部屋へと戻っていった。
が、恐ろしい勘働きで、鬼童丸が鎖を引きちぎり天井裏に潜んでいる事を見抜くと、家来たちに伝えるふりをして、これ見よがしに言った。
「快気の祝いに、明日は鞍馬へ詣でることにいたそう」
手狭な部屋の中であることや家来に守られている事を考えて、鬼童丸は明日、鞍馬に先回りして待ち伏せすることを思いついた。
◇
翌日。
鬼童丸は鞍馬への道すがらにある、市原野までやってきた。そこで放し飼いにされていた一匹の牛を殺すと肉と内臓を貪り食い、残った皮を被って頼光一行が通りがかるのを待った。
だが、頼光の勘働きは昨日よりも鋭くなっており、牛の皮を被った鬼童丸の事をいち早く見破った。弓の扱いに長けた家来にそれを射抜かせる。牛の皮を貫かれ矢を食らった鬼童丸は逆上し頼光に襲い掛かったが、あえなく一刀のもとに切り捨てられてしまった。
◇
「頼光様とは言え、神の如きのお察しですな」
連日の勘働きに、家来はついそんな事を言った。
「うむ。頼信の用意してくれた薬膳のお陰かもしれぬ」
「そう仰いますと?」
「カンの働きがよくなった」
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