人魂の噺
昔話にある話ですが、落語として完成しているので自分なりにまとめてみました。
東京を江戸と申した時分のお話。
とある村のはずれに鉄砲撃ちが一人で暮らしていた。あまり人付き合いが得意な男ではなく、仕事のこと以外では村人と交流を持たずにいた。
今日もいつものように狩りへと出かけていた。
が、その日に限って獲物は一向に現れずほとんどが歩きっぱなしの一日であった。そうして得物を探すうちに普段とは違う道に入ってしまったのか、気が付くと森を抜けて海岸沿いの岩場にまで出てしまった。
「しまった・・・アレは海に出る道じゃったか」
男は小さく呟いた。海沿いには獣は現れず、潮風は鉄砲を錆びさせるのであまり長居はしたくない。その上、既に黄昏時になっており、男は仕方なく狩りを諦めて家に帰ることにした。
「どうせ家に帰るのなら、この岩場と海岸を抜けた方が早いか」
◆
山で慣れているので、岩場と言えどもすいすいと進むことができた。
薄暮の明かりさえも薄らいでいく中、男は海辺に何か光る物が漂っている事に気が付いた。始めは海に何が浮かんでいるのかと思ったが、気になって近付いてみると、どうもそうではないようだった。
「・・・『人魂』だ」
それはまさしく人魂であった。淡い緑色に光を放ち、人が歩くのと同じくらいのはやさで進む様子は、まるで海辺を散歩でもしているかのようである。
「ありゃあ、恐らく狐か狸の仕業だろう」
男は鉄砲を方から降ろし、いつでも撃てるように準備をした。こっそりと人魂の後ろを付けていくのだが、普段の狩場とは違う岩場であったので不慣れからつい物音を立ててしまった。
すると。人魂は男に気が付き、逃げるようにその場を去っていく。男も男で逃がすまいと必死にそれを追いかけた。
◆
いくらか走った後、人魂は海沿いにあった一軒家にするすると入って行ってしまった。
男は気配を消し、家に近づき中の様子を窺った。そうすると夫婦らしい男女の話し声が聞こえてきた。
「おいおい。うなされながら寝ていたが平気か? えらい汗じゃないか」
「ああ、お前さん。アタシは今、恐ろしい夢を見ていたよ」
「夢? どんな夢を見たって言うんだ?」
「そこの浜を気持ちよく歩いていたんだが、後になって鉄砲持った見知らぬ男が追いかけてきた」
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