古戦場火の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
河内国若江には、大阪夏の陣で討ち死にした多くの武者たちの霊が彷徨い出たという。徳川軍に敗れた豊臣側の武士たちの魂は成仏できずに鬼火を伴って現れる。そして切られた自分の首を探しては辺りを彷徨い歩くのである。人々はこれを『古戦場火』と呼んで憐れんでいた。
◆
ある時のこと。この古戦場火の話をどこかで聞いた与太郎が、一つ分からない事があると物知りの隠居を尋ねてきた。
「それで、その古戦場火の話の一体何が分からない?」
「それがですね、死んだ侍が首を探すってのは分かるんですが、何で鬼火を伴っているんですかね?」
「それはお前、亡霊というのは夜に出ると決まっている。探し物をするなら灯りがなくちゃ仕方ないだろう」
「それはおかしいですよ。だって首がないんですよ? 明るかろうが暗かろうが関係ないでしょう」
「それがお前の浅はかさだ」
「といいますと?」
「いいか。若江の古戦場に彷徨い出るのは討たれたとはいえ摂津国は大阪城の羽柴の家来たちだ。テンカするための付け火が必要なのだ」
読んでいただきありがとうございます。
感想、レビュー、評価、ブックマークなどして頂けると嬉しいです!




