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怪談 しゃれこうべ  作者: 小山志乃
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魍魎の噺

 魍魎(もうりょう)という妖怪がいる。


 この妖怪には二つの特徴がある。


 一つは好んで死人の肝を食べると言う事。

 一つは存在や姿形が曖昧であると言う事。


 その根拠を挙げる。


『本草網目』という中国の書籍には、【罔両(もうりょう)】は好んで亡者の肝を食べるとある。


 更に『周礼(しゅらい)』には戈を執って塚穴に入り、【方良(ほうりょう)】を駆逐する、と退治の方法を述べている。


 また『淮南子(えなんじ)』という同じく中国の書物によると【罔象(もうしょう)】は水から生まれる妖怪だという。事実、日本では水神を意味する「みずは」という名で呼ばれていた過去がある。


 注目すべきは、同じ妖怪のであるのに微妙に名前とその表記されている字が異なる点である。


『淮南子』は罔両の姿についても述べている。罔両は三歳の小児の如く、色は赤黒く、目は赤、耳は長く、美しい髪を持っていると記されている。


 そして亡者の肝を食べるという観点から、本邦では亡骸を奪い取る「火車」という妖怪と同一視されることがある。この妖怪の目撃談の多くは猫に似た姿かもしくは猫そのものであることが多く、淮南子の説明とは食い違う。


 更に不思議なのは火車は読んで字の如く、火炎を纏う車輪にまたがり葬儀の場に現れるというが、淮南子では罔象は水の妖怪とされているので、この混同は我々に大きな疑問を持たせる。



 何故、このように名前や性質や姿形が曖昧であるのか。

 

 実はこれらは魍魎の並々ならぬ、努力の成果なのである。


 ◇


 魍魎は人間の肝を食べるのが大好きだった。


 そしてかつての魍魎は、それはそれは筆舌に尽くし難い程の恐ろしい姿をしていたのだ。


 筆舌に尽くし難いので書くことはできないが、それはもう恐ろしい姿だった。


 更に魍魎に限らず、数多の妖怪と言うのは夜間、人目のない暗い場所にいきなり現れるものである。


 そうすると人間たちは魍魎が目の前に出てくる度にこう言った。


「驚いて、肝が潰れた」


 潰れてしまった肝は食べられない。


 だから魍魎は名前も性質も姿形でさえも、長い月日をかけて段々と恐ろしくなさそうな曖昧なものにしていった。


 そして念には念をいれて、生きている人間の前には現れず、夜な夜な墓場から死体を掘り出して亡者の肝を食べるようにしたのだという。

読んでいただきありがとうございます。


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