盤若の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
とある村に仲睦まじく暮らす家族があった。けれども、その家の夫と子が相次いで病でなくなり、嫁と姑とが二人残されてしまった。
二人は大いに悲しみ、始めのうちは手を取り合い暮らしていたのだが、その内に姑が悲しみの行き場をなくして嫁に当たり散らすようになった。嫁はできた娘だったので、姑の傍若無人な振る舞いにも必死に耐えていた。
ある日の事。
嫁は朝早くから夫と子の墓参りに出掛けた。姑の事も誘ったのだが、足や腰が痛いと嘘をついて嫁を一人で行かせた。嫁を驚かすために一つ考えがあったからである。
姑は嫁を見送ると、墓場に先回りして『盤若』という鬼の面を被って嫁が来るのを待った。そして頃合いを見計らって嫁を驚かすと、慌てふためいて逃げて行く嫁を見てさも愉快そうに笑った。
ところが。
悪趣味な悪戯を終えて盤若の面を外そうとしたのだが、何をどう頑張っても面が顔から外れない。やがて昼が過ぎ、夕方になり、夜更けとなって面がビクともしない事に観念した姑は、全てを嫁に打ち明けて涙ながらに謝った。
◆
「私と一緒にきてください。面を外すよい手立てがあります」
全てを聞いた上で、姑のことを許した嫁はすぐに隣の家へと向かった。そして隣の奥さんを呼んでくると、盤若の面をつけたままの姑に引き合わせた。そうしたところ、盤若の面は姑から外れて「命だけはお助けっ」と叫びながら外へ逃げ出してしまい、それっきり姿を見せなかった。
姑は今までの酷い仕打ちを改めて謝ると、再び二人で手を取り合って仲良く暮らすことが出来たそうな。
◆
「ところで、なんで隣の嫁さんと会ったら盤若のお面が外れたんだろうねぇ?」
「ああ、あの人は近所でも有名な「面食い」なんですよ」
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