魃の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
とある米所が、ひどい日照りに悩まされていた。神頼みや雨ごいを試みたが、いつまでたっても雨粒一つ降ってくる気配がない。村人たちは戦々恐々として日々を送っていた。
ある時。
今日も今日とて神頼みをするために、近くの神社に訪れた者があった。山にかかる参道をもぼっている途中、上の方に奇妙な何かが立っている事に気が付いた。
人間ではなかった。
一本の足で立ち、同じく一本しかない腕で遠くを見るような仕草をしている。全身は獣のような毛で覆われており、顔は猿と猪を確かのような異形の姿だった。それは参道にいた村人に気が付く、片足とは思えない速さでいずこかに消え失せてしまった。
帰った村人は、すぐにこの事を皆に知らせた。すると片田舎にしては珍しく学のあるものが、それはきっと『魃』だろうといった。
◇
魃は元々は魃という名の、唐の国にいた見目麗しい娘だった。生まれながらに体に人並み外れた熱を宿し、それの行くところは全て雨が止み、天候を晴れさせるという。ところが同じところに留まっている限り雨が降ることがない為、次第に人々からつまはじきにされ、果てにはあのような妖怪へと化してしまったという。
◇
魃がいる限りひでりは続くことになってしまう。だが、かと言ってどうにかする手立てを思いつくものはいなかった。困り果てた村人たちは、ひとまずその魃がいたという神社まで様子を見に行くことにした。
ぞろぞろと共だって歩いて行くと、再び参道で魃に出くわした。
村人たちがあたふたとしていると、それに気が付いた魃はまた逃げ失せようとした。
◆
ところが。
その時、魃がけつまずいて参道の石段をゴロゴロと転がってきた。
村人たちは皆で呆気に取られて、魃の様子を窺っていた。やがて、もぞもぞと起き出した魃はひょこひょことした足取りでどこかに去ってしまった。
それ以来、魃の姿を見る者はなく、雨も降り出してきたという。
◇
後から聞くところによると、去っていく間際の魃は何ともバツの悪そうな顔をしていたそうな。
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