ぬらりひょんの噺
東京を江戸と申した時分のお話。
海にある妖怪が出ると評判になった。
それはは漁の最中にどこからともなく現れる。黒く丸ぼったい何かが水面に揺蕩っているのだが、それを捉えようとするとツルツル滑って上手く掴めない。そうこうしている内に海中に姿を消し、いつの間にかヒョンと再び水面に現れるのだそうな。
ぬらりぬらりとしていて、ヒョンっと姿を現すことから漁師たちはこの気味の悪いものを『ぬらりひょん』と呼んだ。
とは言っても別段漁の邪魔になる風でもなかったため、漁場の漁師たちは次第にぬらりひょんを放っておくようになってしまった。
◇
ある時。一人の漁師が沖合に出たときに、このぬらりひょんに行き遭ってしまった。相変わらず浮いたり、沈んだりを繰り返している。男はつい魔が差して、ぬらりひょんに網を放ちそれを捕まえたぬらりくらりとしていても、流石に網から抜け出せない様子である。
家に帰った男は早速、このぬらりひょんを網から出してようく調べてみることにした。しかし、その頃にはピクリとも動かなくっており、身体のぬめりも嘘のように消えていたという。
それからというもの。
男は気の病を患うようなった。鬱の気を見せて塞ぎこんだり、反対に馬鹿に陽気なったりして周囲の者を驚かせた。
ぬらりひょんの祟りか否か、男は気の浮き沈みが激しくなったそうな。
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