逆柱の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
ある家に使われていた一本の柱が『逆柱』という妖怪になった。
逆柱とは書いて字の如く、木の自然に生える向きとは上下逆さまにされたまま建材に使われた柱が妖怪と化したものである。この逆柱のある家は夜な夜な柱が軋んだり、火事になったり、泥棒が入りやすくなったりと言われ忌み嫌われている。
◆
ところが。
その家が売りに出されると、瞬く間に買い手が押し寄せて競りの如く高値がついて行ってしまった。すると驚いたのは売り手である。逆柱を理由に低く買いたたかれると心配していた分、驚きは大きかった。
「しかし、何でまたここまで値が上がるのか。不思議な事もあるものだ」
「思ったんですがね、それは逆柱のお陰じゃありませんか?」
「どうしてだい? 逆柱はむしろこの家の傷だよ。これのせいで値が下がることはあっても上がることはない」
「けど逆柱というのは、普通の木とは上下があべこべになっている木の事でしょう」
「そうだけど、それがどうした?」
「根元があべこべに上にあるんですから、これはネが上がっております」
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