野寺坊の噺
火焔太鼓より。
本当は半鐘でなくて、お寺の鐘を鳴らすらしい。
東京を江戸と申した時分のお話。
とある山間の村に、長い間住職が絶え朽ち果てた寺があったそうな。管理をする者がいないので、村の者たちも悪い気を持ちつつもほったらかしにしていた。
◇
ある日の事。
その寺からくぁんくぁん、と半鐘を叩く音が響いてきた。まさか寺で法会が始まる訳も無く、誰かが火事を知らせるために打ち鳴らしているのかも知れないと、村人が総出で様子を見に行った。
ところが、いざ辿り着いてみると寺には何の異変も起こっていない。相も変わらず雑草が生い茂り、いるものの言えば山の狸や虫くらいのものであった。
妙な事もあるものだ、と皆で訝しんだのだが何も起こっていない以上何もできないのでその日は大人しく帰っていった。しかし、その日から毎日日暮れ時になると、やはり半鐘の鳴る音がもの悲しく響き渡るのである。
すると村人の中に諸国の怪談話に詳しい者がいて、これはきっと『野寺坊』の仕業であろうと言った。
野寺坊は朽ち果てたうち捨てられ、古くなった寺に限って現れる。そしてその寺にある鐘や半鐘を鳴らし、近くの人間を驚かせるのだという。そう聞いた村人たちは正しくその通りだと納得したが、毎日々々悲壮な鐘の音を聞くのもつらかった。
そこで、古く朽ち果てた寺に限って出るというのであれば、手入れをしてきちんとした寺に戻せばよいのではと考える者がいた。皆、良い機会だからと賛同し、早速寺を修繕する計画を相談し始めた。
◆
ところが。
ある程度話が纏まっていざ手を付けようとすると、何かと横槍が入ってくる。
大雨が降ったり、ボヤ騒ぎが起きたり、子供が池で溺れたり、熊が出たり、泥棒が村に入ってきたり、といった具合で、何時まで経っても寺の修繕を行えなかった。
今日も村には、くぁんくぁんと半鐘の音が響いている。
「野寺坊が半鐘を叩いている内は、寺を直せないかも知れないな」
「どうしてだい?」
「おじゃんになるから」
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