家鳴の噺
東京を江戸と申した時分のお話。
丹波の国で出来事である。
その界隈に住む浪人たちが、夏の夜長の度胸試しと称して怪奇が起こると評判の荒れ屋敷に忍び込んだ。そこはかつての家主が化け物に祟り殺されたという噂の残こされている。
行燈の灯を頼りに持ち寄った酒や肴を飲み食いしながら、怪奇の起こるのを待っていたのだが、中々そういったことの起こる気配はなかった。やがて酔いと眠気がまわり、全員がコクリコクリと舟を漕ぎだした頃。にわかに屋敷全体が大きく揺れ出した。
寝耳に水の浪人たちは、方々の体で逃げ出した。しかしながら、奇妙な頃に揺れているのはその屋敷だけであり、外に出てしまうと何事もない。
何かの勘違いかと思った浪人たちは明くる日も同じ部屋に泊まって見たのだが、再び同じような自信と見紛うような大きな揺れが起こったのである。
◇
これこそが怪異だと悟った浪人たちは、日頃から親交のある僧のもとに出向いて事情を話した。
「それは恐らく『家鳴』という物の怪であろう」
話を聞いた僧は言った。誰もいないはずの家の中で、家具や家そのものが揺れ動く怪異をそう呼ぶのだという。ところが、今まで自分が聞いた事のある家鳴の話比べ、規模が大きいと感じたその僧は、今度は自分も加わってその屋敷に赴くことを決めたのだった。
いよいよ、その時刻になる。するとやはり屋敷がにわかに揺れ始めた。
ところが僧は落ち着き払っており、部屋の中でも特にうねりを見せている座敷を見極めると、そこに短刀を突き刺した。そうしたところ、まるで嘘のように揺れは収まってしまった。
明朝。
突き立てた畳を剥して床下を調べてみると、一つの墓標が顔を覗かせた。それには「刃熊青眼霊位」と記されており、丁度「眼」と書いてある部分から血のような赤い水が滴り落ちていたという。
浪人たちは、このことを踏まえて近所に事情を聞いた。すると、かつてこの屋敷に住んでいた金持ちの男が熊を捕まえて殺してしまった過去があるというのだ。男は祟りを恐れ、墓を作り供養したのだが、それでも熊の怨みは静まらずとうとう男を呪い殺したのだそうな。
◆
改めて事情を知った僧は、熊を手厚く供養してやろうと考えた。浪人たちもそれに賛同して、床下の墓石を取り出した。
すると。
外に運び出した墓標は、黄金へと変わっていた。陽の光に照らされてキラキラと眩く光っている。
「これは一体、どうしたというのだ」
皆が呆然としている中、浪人の一人が得心が言ったように呟いた。
「この家鳴の出る家には昔大金持ちの男が住んでたと、そう言っていたな?」
「そう聞いたが、それがどうした」
「つまり、ナリキンってことじゃないのかい?」
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